カノンは、 まだ朝靄に包まれた聖域を、双児宮目指して足早に歩いていた。
彼はたった今、海底の海将軍筆頭としての仕事を4連続の徹夜の末、何とか終わらせて急いぎ聖域に戻ってきたのだ。
今日の双子座の執務を果たすために。
眠気で落ちそうになる瞼と、ところ構わず眠り込みそうな体を騙しながら、数時間の睡眠を取るべく自宮を目指していた。
聖戦で死んだ全ての闘士が生き返って以降、カノンは双子座と認められた今も、ポセイドンからは海竜の鱗衣を授けられている。
与えられた恩赦への返礼として、海将軍筆頭として責任、聖戦での償いを果たすべく、週に約3日は海底で仕事をしているのだ。
ポセイドンより、もう一度鱗衣を授けられた際に筆頭は辞退したもののいまだ幼い者多い海将軍だけでは対応できないと言うことと、某海将軍から「アンタがポセイドン様を起こして色々やったんでしょう!責任とって働きなさい!!」などといたぶられ、再度筆頭として海底の指揮を取っている。
とは言え、海底神殿はポセイドンの力で復活したし、聖戦もない上に、聖域ほど規律・組織が大きくないため人が集まって生じる雑務を主にやっているだけなのだが。
対して、聖域はかなりボロボロであった。
聖域は組織としては神話の時代から続いている分、突発的にポセイドンの小宇宙に呼ばれて集まった海底よりはるかに複雑化しているのだ。
そして、今回の聖戦(主にサガの乱が元)で組織としては壊滅的ダメージを受けていた。
カミュの元へ会いに来たアイザックに、「こんなボロボロだったんだ。何か、こんなボロボロのところに負けたって恥ずかしいな」とポソリと漏らされるほどにボロボロ。
そのボロボロっぷりに海将軍が同情して、「聖域の建て直しに力を貸したい」と言うカノンの意見を尊重しカノンの主な住居を聖域にすることを認めたのだ。
もちろん、仕事があれば海底に呼び出すし、色々と仕事はしてもらうと言う条件はついているものの。
ともあれ、海底もまだ完全に落ちついた訳ではないので色々と決裁すべきこともあり、海底にいる日数が限られているため海底出向中連日徹夜で仕事をする羽目になった。
聖域の方は、聖域の方で使える者は猫の手でも使え!と言う状況なので、使えるカノンが抜けると結構な痛手になる。
カノンも、そのことは知っているので疲れた身体に鞭を打って戻ってきたのだ。
カノン「サガの奴は、この点においてだけは楽だな。海底との往復はない分、寝られて」
独り言でも言っていなければ、この場で眠ってしまいそうな身体を必死で支えながら12宮の階段を上る。
それでも、自分たちが犯した罪を省みれば「眠い」だの弱音を吐いて入られない。
とは言え、人間の身体は疲れれば睡眠を要求するし、身体だって平時のようには動かない。
足元がふらついてヨロけると、大きな手が身体を支えてくれた。
まだ全てが寝静まっているはずの時間にも関わらず。
驚いて顔を上げると、第二宮の主が立っていた。
カノン「・・・早いな」
アルデバラン「ああ、ちょっとな。今、海底からの帰りか?」
カノン「そうだ。お前はまだ寝ている時間じゃないのか?」
アルデバランの横にはムウもいた。
カノン「ムウまで。何を、お前たちこんな朝早くから起きている?」
この2人とて、サガやカノン程ではないにしろ山のように仕事をさせられている筈だ。
まして、まだ太陽は地平線の下。
寝てるような時間ある。
早朝から起き出す体調にしては、ムウの目の下には隈があるし、アルデバランも疲れた様子が隠しきれていない。
ムウ「ちょっと気になることがありまして。カノンが、今帰りと言うことは双児宮にはサガ一人しかいないのですよね?」
カノン「?・・・誰かが双児宮に泊まりに着ていない限り、そうなるだろな」
解りきったことを聞いてくるムウに不審を覚える。
カノン「・・・何かあったのか?」
意識が覚醒する。
アルデバラン「それが、さっきまで高笑いが聞こえていたんだ」
カノン「高笑い?・・・双児宮からか?」
ムウ「ええ。初めは気のせいかと思ったのですが、気になったので金牛宮にきたらアルデバランも同じ事を言うんです」
カノン「デスマスクが、何かやっているんじゃないのか?」
ムウ「彼なら、放っておきますよ。巨蟹宮から白羊宮は遠すぎて、声は聞こえないはずです。何より声が、デスマスクではなさそうなんですよ」
カノン「・・・・サガの、この声か?」
自分の喉を指してムウに問う。
ムウ「ええ」
ムウも困惑した表情をしている。何せ、彼らの知るサガは高笑いをするような人物ではない。
声を立てて笑うより、表情で優しく笑うのがサガなのだ。
優しく笑いながらも洒落にならないことをする人物でもあるが、少なくとも高笑いはしない。
アルデバラン「それで、行ってみるかどうするかを話していたところに、お前が帰ってきたんだ」
カノン「そうか」
顎に手を当て、思案する。いくらあの兄がストレスで壊れたとしても、高笑いはしないだろう。
どちらかと言うと、欝になって部屋の隅っこに蹲っている方が兄らしい。
もしくは、ロープでも出してきて首を吊ろうとするか。
どちらにせよ、自滅型の姿を想像しつつ首を傾げるが、考えたところで答えが出るわけでもない。
カノン「まあ、いい。今から帰るから、オレが調べておく。お前たちも、もう少し寝てろ。疲れたって顔しているぞ。・・・大丈夫だ、何か変な夢でも見ているんだろう。気にするな」
追い払うように2人に手を振って、双児宮への階段を上がる。
ムウ「本当に大丈夫でしょうか?」
アルデバラン「何もないといいんだがな」
不安げに、後姿を見送る。
もちろん、その不安は10分と経たない内に現実のものになるのだが。
一方、カノンはフラフラと双児宮の自室に帰るべく居住空間のドアを開けた。
室内を見回したところで、出て行った時と特に変わりはない。
もう一人の主のサガとて、ほぼ教皇宮に詰めているはずなのだから、当然自宮で何かをする暇などない。
カノン「特に異常は・・・」
???「わーははははは!!」
カノン「・・・・・あったな(呆)このエコーの掛かった声、浴室か」
頭痛が起きそうな頭を抱えて声のした方へ、すなわち浴室へと向かった。
カノン「こんなところで何をやっているんだ?あのバカは」
浴室のドアを少しだけ開けて、男の―しかも同じ顔―入浴シーンを全開して覗く気にはなれなかったので少しだけ開けて覗く。
中にはいつも通りだだっ広い風呂場。
12宮各宮には教皇の間ほどではないにしろ、禊用に立派なものがあるのだ。
常々にカノンは、この広さを書庫にでも使えたらと思っているが勝手に改装するわけにもいかず、相変わらず風呂のまま。
原因は明らかに、兄の潔癖にも近い風呂好き。
カノン「・・・・・・・・・誰だ?」
兄がいると思って覗いた浴室には、黒髪の男が腰に手を当てて高笑いをしている。
全裸で。
しかも、窓は当然カーテンまで全開で。
外に漏れた笑い声は、あの窓から響いたのだろう。
風向きから言っても、下の方によく流れていったと思われる。
カノン「黒髪って、ハーデスではあるまいし」
当たり前である。
百歩譲って聖域にハーデスがいるのは認めても、朝っぱらから双児宮の風呂場において裸で高笑いを上げるわけがない。
んな、上司は冥闘士一同泣いて止めてくれと懇願するだろう。
カノン「黄金の黒髪は、老師とシュラか。・・・でもアイツらは短髪だな」
しかし目の前で高笑いする男は、黒髪の長髪。
見事に髪の跳ねた。
しかも、金色のそっくりな跳ね方ならば毎朝見ている。
カノン「・・・・・・・・残るは、噂の黒サガか」
彼自身は黒サガにあったことはないが、他に思い当たる節はない。
その事実を知覚した瞬間、全身に徹夜による疲れ以外の疲れがドッと出る。
「このままここに倒れて寝てしまえたら」と言う誘惑を必死で振り払い、脱衣所においてあったブラシを片手に、中に入る。
黒サガ「わーははははははは。シャバだ!私の身体だーー!!」
カノン「うるさい」
ゴッ
呑気に笑いながら、意味不明なことを言う頭を問答無用で殴り飛ばした。
その際、ブラシの柄が折れたがカノンは気にしない。
そんな事実は無視してムウにテレパシーを送った。
カノン「ムウ」
ムウ「やっぱり何かありましたね」
待ち構えていたように、答えが返ってきた。
カノン「ああ。すまない。すまないついでに、今すぐ双児宮に来てくれるか?出来ればアルデバランも一緒に」
ムウ「解りました。直ぐに行きます」
カノン「状況は来てくれれば解る」
ムウ「了解です」
数分後、気絶してカノンに抱えられたサガを前に、ムウ・アルデバランが腕を組んで立っていた。
ムウ「で、サガに何があったんです?」
カノン「・・・黒いのが出たんだと思う。オレは直接会ったことはないが、髪が黒い状態で風呂場で裸で高笑いしていた」
アルデバラン「裸に黒髪?サガは服を身に着けているし、髪も金色だぞ」
そう、彼の言葉の通り今のサガは金髪。服も、バスローブだが一応着ている。
カノン「アルデバラン。男の裸を見たいか?いや、それより自分と同じ顔で裸を放置しておきたいか?」
アルデバラン「・・・お前が着せたのか?」
カノン「見たくもないものが視界に入るからな」
ムウ「ご苦労様で、お疲れのところ」
年下2人に、肩を叩いて慰められる。
ムウ「で、さっきからあの変を漂っている黒物体なんですか?霧のような」
アルデバラン「黒い霧?どこに?」
ムウ「ほら、そこですよ」
アルデバラン「・・・あのうす〜い霧みたいなののことか?」
ムウ「ええ」
カノンに支えられたサガの周りを、黒っぽい霧がクルクルとまとわり着いている。
カノン「黒サガ(即答)」
アルデバラン「黒サガ?しかし、アレはアテナの盾で浄化されたんじゃ」
黒サガ「あの小娘の力程度で、私を消せるかー!!私は不滅だーーーー!!!」
カノン「やかましい!」
耳元で馬鹿でかい声を上げた黒を、蹴り飛ばす。
カノン「何がなんだかよく解らないが、ともかく帰ったらアレがサガに取り付いていてな、今さっき追い出したところだ」
アルデバラン「追い出す?黒サガをか?」
ムウ「はぁ?」
二人の頭には疑問符が飛び交っていた。
カノン「あ〜、お前たちはサガの体質については知らないのか」
黒サガ「ふふふふふふ、私はそんなヘマしなかったからな」
早くも復活した黒サガを無視して、少し考えてる。
カノン「ムウ、取り合えず、アテナに報告してきてくれ。他の黄金聖闘士にも知らせて。多分他の連中もお前たちと同じ質問すると思うから、一括で状況の説明をする」
ムウに向けられた眼は、なかなか疲れ果てていた。
重ねて問うのが憚られるくらいに。
ムウ「・・・解りました。教皇の間に集まってもらったので構いませんね?」
カノン「ああ、頼む」
ムウは、先に双児宮を出て上へ上がってゆく。
兄の身体を支えながらその後を追うとするカノン。
しかし、疲れと兄の重みで足物がおぼつかない
アルデバラン「大丈夫か。お前も疲れているようだし、オレが運ぼう」
カノン「あー、なら、反対側から支えてくれ」
両脇からサガを支ええて、12宮の最終宮―教皇の間に向かう。
その3人の後ろ、頭の辺りを黒い霧がフラフラ漂いながらついてくる。
カノン「朝っぱらからすまない、バカな兄が」
黒サガ「誰がバカ兄だ!この愚弟!!」
アルデバラン「わははは、気にするな。お前が悪いわけでないんだ。黒をお前が連れてきたんじゃないんだからな」
黒サガ「誰が黒だ!サガ様と呼べ、牛!」
カノン「・・・スマン」
黒サガ「わかれば良い!!」
全く黒サガを無視した会話をする2人。
そして、無視されている事実を無視する黒サガ。
デスマスク「よぉ」
巨蟹宮の前では、デスマスクがニヤニヤと立っていた。
デスマスク「ムウに聞いたぜ。黒いのが出たんだって?」
黒サガ「デスマスク、いいところに!!あの愚弟を私の身体から引き離せ!!」
即座に、デスマスクにまとわり付く黒サガ(霧状)。
カノン「野次馬に待っていたのか?」
疲れで、悪化した目つきでデスマスクを見やるカノン。
デスマスク「まーな。にしてもアンタも随分変わったなぁ」
自分の周りにフワフワ浮いている黒サガ(霧状)を、指でつつきながら笑う。
黒サガ「そう思うなら、早く愚弟を私の身体から放せ!そうすれば、神の作った芸術品の復活だv」
デスマスク「は?アンタ、カノンがいると身体に入れないのか」
カノン「ああ」
アルデバラン「それで、反対側を支えてくれと言ったのか」
カノン「ああ。まあ、詳しいことは教皇の間で話す。何度も話す気力は今のオレにはない」
どちらかというと、今にも潰れそうになりながらも歩き続ける。
むしろ、彼は歩いていることで意識が保っているのかもしれない。
デスマスク「へぇ〜」
相変わらずニヤニヤしているデスマスク。
アルデバラン「デスマスク、お前楽しんでいないか?」
デスマスク「解るか?ここのところ、暇で仕方が無いデスクワークしかやっていないからな。騒動が起きた方が面白いぜ!」
カノン「では、そいつが何かやらかした場合の後処理はお前に任せていいということだな」
デスマスク「はぁ?何でオレが!?弟のアンタの仕事だろ!」
カノン「お仲間なんだろ。一番最初に離反したオレより繋がり深いだろ。大体、オレにしてみれば黒サガが出たと言うだけで既に面倒だと言うのに、これ以上の面倒を起こされて堪るか。んなことの事後処理やる暇があるなら、オレは寝る!」
アルデバラン「疲労がたまっているな」
カノン「徹夜4連、ずっとデスクワークしてみろ。今のオレになるのは簡単だぞ」
デスマスク「真面目にやるからそうなるんだぜ。たまには手ぇ抜けよ」
肩に置いてきた手を、払い落としす。
カノン「手を抜いて、終わるなら手を抜くに決まっている。抜かん方が早く終わるから抜いていないだけだ。と言うか、デスマスク。しょっちゅう戻ってくる仕事があるのはお前がいい加減な決裁をした奴か?」
デスマスク「さあな。他にも手抜いているのいるぜ」
アルデバラン「手を抜いていなくても、間違えるのもいるからな」
アルデバランは自分の同期の何人かを思い浮かべる。
カノン「時期教皇と指名されたアイオロスもいまいち使えんし」
黒サガ「フッ、だから私にやらせろ。完璧な統治をしてやる」
カノンは胡乱気な目でデスマスクにまとわり着いている黒サガを見やったが、ただ溜息をつくに留めた。
デスマスク「アンタ、嫌われてんな」
黒サガ「私の才能に嫉妬しているだけだ」
デスマスク「そのナルシーも相変わらずだし」
黒サガ「私のどこがナルシストだと言うのだ!完璧な私、私が誉めるのは当たり前だ!」
アルデバラン「自己陶酔をナルシストと言うんじゃ・・・」
黒サガ「自己陶酔ではない!」
カノン「過剰な自己讃美もナルシストだ」
黒サガ「過剰とは何だ、過剰とは。事実を言っているだけだ。現に私が街に出れば、何もしないでも老若男女あ寄ってくるではないか!」
デスマスク「それは事実だな。まあ、その外見だ。当たり前っちゃぁ、当たり前だが」
カノン「自惚れれば、ナルシストになるっツーの」
黒サガ「同じ顔でも私ほどの知性がないゆえ、嫉妬でそのようなことを言うとは。案ずるな。私に劣るとはいえ、お前もそれなりの芸術品だぞ」
カノン「オレ自分の顔に興味はない」
デスマスク「それだけ整っていりゃ、気にする必要ねーだろ!」
アルデバラン「まあ、アレで劣等感もたれた日には世の中の男の大半は劣等感に悩まされることになるだろうな」
黒サガ「解っているではないか、お前たち」
言葉を挟む気にもなれないカノン。
黒サガ「ま、この私の美貌を前にしては、私を貶める発言など出来るものはいまい!わーはははは」
デスマスク「でも今のアンタは、黒い霧に顔があるだけだぜ。しかも、目と口があるくらいで美醜もクソもない」
黒サガ(ガーン!)
アルデバラン「え?顔なんて見えます?オレには、薄い霧しか見えないんだが」
デスマスク「ああ、お前霊感系統あんまりないんだろう。それで、ハッキリとは見えないんだろ」
黒サガ(ガガーン!!)
デスマスクの肩に止まって、プルプル震える黒サガ。
アルデバラン「言い過ぎたんじゃないか、デスマスク?」
デスマスク「お前のほうが酷いこと言ったと思うけどなぁ」
カノン「静かになって、いい。放っておけ」
黒サガ「〜〜〜〜〜退け!!愚弟!!!!」
怒声を上げてデスマスクの肩から飛び降りた黒サガ(霧状)は、前を歩くカノン目掛けて突進した。
アルデバラン「カノン!?」
デスマスク「おい!」
意外な行動に、咄嗟に2人はカノンに呼びかけたが当の本人は落ち着いてた。
飛んでくる黒サガ(霧状)を、サガの身体を支えていない左手で叩き落としたのだ。
カノン「オレが触っているだけでサガの身体にも入れんのに、オレ自身に触れられるわけがないだろう。アルデバラン、教皇の間に急ぐぞ」
軽く踏みつけて、上がっていく。
デスマスク「アンタ、もしかしてカノンとの相性最悪?」
黒サガ「〜〜〜〜〜この私を踏みつけるとは!(涙) 身体さえあれば、あんな奴に好き勝手はさせんのに!!」
デスマスク「聞いちゃいねーな」
仕方がなく、床に張り付いたままブチブチ言っている黒サガを拾い上げて前の2人の後を追う。
黒サガ「神にも等しいこの私を踏むとは(涙」
デスマスク「ああ、悪い弟だな」
黒サガ「あんな愚弟、もう知らん!」
デスマスク「ああ、ああ」
愚痴愚痴言う黒サガ(霧状)に、本当に適当な相槌をうつ。
暫くは、黒サガ(霧状)もそれで納得していたが、時間が経つにつれて益々いい加減になっていく相槌に切れた。
黒サガ「もう少し親身になった相槌は打てんのか!」
デスマスク「んなこと言われてもなぁ。アンタに味方したからって特に何があるって訳でもないし」
黒サガ「一緒に世界制服を目論んだ仲ではないか!」
デスマスク「今それやると、オレもアンタも女神にニケで串刺しにされて終わるだけだぜ」
黒サガ「やる前から諦めるな!」
デスマスク「・・・アンタ、身体ないのに元気だなぁ」
黒サガ「フッ、凡人とは違うからな。それにしても、貴様私に忠誠を誓ったのではなかったのか?」
デスマスク「オレは、"サガ"を助けたんだよ」
黒サガ「即ち、私であろう」
デスマスク「アンタは確かにサガだ。だけどな、半分は違うだろ?」
相変わらず、ニヤニヤ笑っているが少しだけ雰囲気が変わる。
黒サガ「・・・半分はサガだ」
答える黒サガ(霧状)の雰囲気も。
デスマスク「でも、半分はアイツじゃない」
黒サガ「それほど重要か?残り半分が、"サガ"でないことに。最早、別け難く融合した魂にどんな意味がある。半分が違うなど」
デスマスク「・・・それでもオレは、"サガ"を助けたかったんだよ」
目を伏せたデスマスクの顔の前を遊泳する黒サガ(霧状)。
デスマスク「アンタはサガには違いない。だから、助けた。でも、アンタは"サガ"を苦しめた。アンタの半分を構成する魂が。アイツじゃない魂が、アイツの身体を操って。それがどれだけ、アイツが血の涙を流したかはアンタが一番良く知っているだろう?」
黒サガ「だから、"私"には味方しないと言うわけか。アテナが戻り、神の統治が及んだ今は」
デスマスク「オレは13年間、アンタの手足になった。いい加減、オレたちのサガを帰してくれてもいいんじゃねーの?今、どの神も地上を狙ってねーぜ。アンタの言う平和そのものじゃねーのか?神からの侵略はないぜ」
黒サガ「・・・・・・・・・・・・・私は神を認めない」
デスマスク「・・・本当に往生際が悪いな、アンタは。はっきりと負けたのに」
黒サガ「諦めたら、"私"は終わるんだ!"私"は神を否定することで生まれた!!」
アルデバランは、サガをカノンと一緒に運びながら後ろを歩いてくる2人の会話に首をかしげた。
デスマスクは、一体"誰の"話をしているのか。
カノンの方を伺い見るが、彼は真っ直ぐと教皇の間を目指して何も口にしない。
見えてきた、教皇の宮を真っ直ぐ見据えたまま。
デスマスク「ほら、教皇の間に着いたぜ」
黒サガ「・・・・・・・・・・・・・・・・、私をどうするつもりだ?」
主人の陰に隠れた子犬のように、デスマスクの陰に隠れながらカノンに問う。
カノン「祓う」
教皇の間の入り口に着いたとき、やっと振り返り口を利いた。
黒サガ「何ぃ!?私は貴様の兄だぞ!」
カノン「兄だと?」
口元を皮肉に歪める。
カノン「オレが祓うと言った理由は貴様が一番よく解っているだろう」
カノンは指すような目で黒サガ(霧状)を眼ね付けた。
カノン「デスマスク、そいつを逃すなよ。積尸を使えるお前なら、その魂だけの奴にも触れるだろ」
扉を開けながら、デスマスクに釘を刺す。
デスマスク「あ、ああ」
カノンの迫力に押されて、逃げようとしていた黒サガ(霧状)の尻尾?を捕まえる。
黒サガ「は、放せ!」
デスマスク「悪りーけど、今のアンタよりはカノンの方がオレは敵に回したくない。大体、アイツの言い分間違ってねーじゃん」
黒サガ「裏切り者ー!」
デスマスク「最初に裏切ったのはアンタだろ」
黒サガ「私が正しいと思ったから、私は己の考えを実行したんだ!ただ、それが神殺しだっただけだ。そして、魂の半分にとって拷問だっただけだ」
デスマスク「身勝手極まりねー自論。スッゲー、アンタらしいけどな」
皮肉とも、素直に笑ったとも取れる笑みを浮かべつつ、往生際悪く暴れる黒サガを連れて教皇の間に入る。
そこには、ここに来るまでの間いなかった宮の主に、教皇と女神が揃っていた。
沙織「なあに、カノン。緊急事態って?まだ夜が明けたばかりじゃない」
カノン「アテナにご就寝のところ、お呼び立てして申しご訳ありません。されど、早急、且つ、迅速にアテナのご判断を仰ぎたい事態が生じました故、どうかご容赦ください」
沙織「それで、何があったの?ムウにさっき起こされたところなんだけれど。サガは気絶しているみたいだし、デスマスクは変なもの持ってるし」
黒サガ「変なのとは何だ!変なのとは!!この小娘が!」
まだ眠いらしく、眼をこすりながら遅れて来た4人を見る。
なお、アテナに無礼な口を利いた黒サガはカノンに殴られ、シャカに数珠でグルグル巻きにされてて大人しくなった。
否、口まで塞がれて大人しくさせられた。
カノン「単刀直入に申し上げますれば、我が兄サガが今一度多重人格・・・正確には人格分離症に併せまして、悪霊の憑依によりもう1つの人格として生じた黒サガが現れました」
沙織「は?」
カノン「一言で言いますと、黒サガが現れました」
沙織「サガの髪、黒くないわよ」
カノン「黒サガは、あちらに」
シャカの数珠でグルグル巻きにされて、もがいている霧を示す。
沙織「アレ?」
カノン「アレです」
沙織「・・・・・・変わり果てた姿になったわねぇ(ホロリ」
シオン「・・・・・・アレが私を殺した奴か」
なんとも言いがたい表情をする2人。
童虎「しかし、カノン。お前さん、今妙なことを言っておらんかったか?人格分離症と悪霊がどうとか」
沙織「そういえば、そんなこと言っていたわね。どういう意味?」
カノン「私が黒サガに会うのはコレが初めてでしたので、今までは確証がなかったため今まで口にしませんでしたが、あの黒サガは半分はサガですが、もう半分は悪霊のようです」
全員(年中組み&シャカを除)「はぁ?」
沙織「どういうこと?」
全員の疑問を代表して沙織が口にする。
カノン「・・・最初に、少々サガの体質について説明した方が解りやすいですかね」
頭をかきながら、どこから話すか思案する。
カノン「アテナは、霊媒体質と言うものをご存知ですか?日本では、イタコとか言われているらしいですが」
沙織「あの、死んだ人の幽霊を呼んで自分に憑依させるっているイタコ?」
カノン「ええ。サガはその体質でして、昔子供の自我が弱かった頃には、しばしば乗っ取られたりしていました。いきなり、普段のサガならばやらないような行動に走ったり、話し出したりと。影響が弱い場合は、頭痛や気分が悪いといった程度で済みますが」
シオン「そういえば、その話は聞いたことがあるな。墓場などに行くと、体調の不調を訴えたり、サガらしからぬ―全く別人のような行動を取るとは」
アイオロス「あ!それならオレも見たことがある。前に、サガと一緒に聖域の墓場に行った事があったけど、あん時のサガは調子悪そうだったっけ。しかも、いきなり高笑いし始めて。驚いたな〜、あははは」
カノン「普通はそこで異常に気づくがな。墓場などは、死者の霊が有象無象にいるからな影響を受けたのだろう。というか、驚く以外に感想はなかったのか?お前」
アイオロス「いや、疲れてんのかな〜って思っただけ」
カノン「・・・・・・(サガも苦労したな)」
カミュ「しかし、カノン。そうすると巨蟹宮はどうなる?あれだけ山のように幽霊が巣食っていたが、黒サガの偽教皇時代にはサガが巨蟹宮を通過したからと言って、変になった話は聞いていないぞ。他の悪い噂ならば山のように聞いたが」
アフロディーテ「私も、サガが変になったところは見ていないな。黒くなって変な言動をすることはあったけれど」
シュラ「オレもだ。体調の不調を訴えることもなかったはずだ」
童虎「それに、サガが普通に双子座として聖域にいた時もそんな問題がおきていなかったはずじゃがのぅ」
質問の一斉放火を受けるカノン。
カノン「一斉に話すな!順を追って説明するから。先ず、13年前にオレがスニオン岬に閉じ込められるまでは、オレがサガの結界変わりだったんだよ。オレはサガとは逆に霊を受け入れない。本来は2人に半分ずつ分けられるはずだったのが、どうも片方に集まってしまったらしく、普通の人間よりは、どちらも有した個々の能力は高い」
アイオリア「大変だな。2人で2人前とは」
カノン「普通は、2人で一人前と使うものだ。ともあれ、オレがサガの側にいる限りはある程度押さえが利く。年中横にいなくとも、居住空間が一緒であったりすればな」
シャカ「なるほど、君自身がサガのお札と言うわけか」
カノン「ああ。その効果は一緒にいる時間の大体比例しているらしい。長い間一緒にいれば結界は強固に、大抵の幽霊を弾き飛ばすか憑依されても自我が残って何とか対応できる。逆に、長く離れれば結界は弱まり、最終的には消える」
沙織「・・・そのお札的存在のカノンをスニオン岬に幽閉。もしかして、サガって自分の手で墓穴掘った?」
カノン「はい」
教皇の間は、静寂に包まれた。
それぞれは、それぞれの思惑を胸にいまだ気絶しているサガを見つめる。
カノン「言いたいことは山のようだろうが、それは後で本人に言ってもらうとして話を続けるぞ」
アイオリア辺りが、すごく物言いたげな顔をしていたが一先ず言葉を飲み込んだ。
カノン「それで、オレがスニオン岬に幽閉されて、ポセイドン神殿に行った後ですがサガを守っていたのが、あの黒サガです」
今度は、数珠で雁字搦めの黒サガ(霧状)に視線が集まる。
カノン「何をどうしたのかはよく解りませんが、あの黒サガの奴半分は聖域の長い歴史の中で様々な思いを残して死んだ死者たちの怨念で出来ているのですが、もう半分がサガ自身なんです。黒サガとして出来上がった人格が宿主を守るべく他の幽霊をサガに近づけないでいたため、黒サガがサガに取り付いて以降はアイツがお札になっていたわけです。自分が占領した身体に他の幽霊が乗っ取りに来ないよう、守っていたようです」
シオン「ちょっと待て。半分が死者で、半分がサガとはどういうことだ?1つの魂の中に2つの魂が存在するということか?」
デスマスク「まあ、近いっちゃぁ近い話だなぁ」
シャカ「むしろ、サガの不の感情を悪霊が取り込んで"黒サガ"を造ったようですね」
デスマスクが同意して、黒サガを突きながらシャカが割って入る。
シャカ「よって半分は死者、もう半分は生きていると言う状況ですね。サガの生霊とも言うべきか、それが混じっています」
沙織「?」
カノン「憶測の域を出ませんが、サガは聖域で色々と・・・私のことも含めて思うところがあったのでしょう。その為ストレスが内に溜まり、死者たちの様々な思念の塊を呼び寄せた。さらにサガも私も精神系の技を使いますから、その辺も手伝って魂が混じってしまったようです」
沙織「混じってしまったようですって、魂って混じるものなの?普通」
カノン「私にそういうことを言われましても、私は専門家ではありませんからなんとも」
シャカの方へ視線を向けると
シャカ「私も除霊と使役がメインで、魂そのものについては然程詳しいわけではありません。蟹、君はどうかね?」
デスマスク「オレもな、殺して黄泉比良坂に落とすのが技であって、魂の構造そのものの専門家じゃねーぞ」
ミロ「何かよくわかねーけど、ともかくサガの生霊と聖域の死者の霊が混ぜ合わさって出来たのがアレなのか?」
カノン「結論から言うと、そうなる」
シオン「そうか。この際、混じった理由と原因については横置きにするとしよう。して、ソレをどうするつもりだ?」
沙織「そうね。シャカ、除霊得意なんでしょう?早く除霊しちゃって。そうすれば、残った生霊部分はサガに戻るんじゃない?」
黒サガ「私の人権はどこに行った!!」
それまで大人しくしていたが、流石に魂半分抹消されるとなるとシャカの数珠を振りほどいて文句つける黒サガ。
カノン「死人に口なしに決まっているだろう!!!」
黒サガ「貴様、半分は実の兄を見捨てようと言うのか!?」
カノン「誰が兄だ!あんな面倒な生き物は、未だにあそこで呑気に寝ているの一匹で構わん!!」
噛み付いてくる黒サガに、柳眉を逆立てて文句を言うカノン。
ミロ「カノン、結構サガに迷惑掛けられていたんだな」
ムウ「私たちの知らないところで、実は色々と被害にあっていそうですよね」
カミュ「サガは悪気なく、天然で無茶をするからな」
アイオリア「大変だったんだろうな」
年少組みの同情を買うカノン。
カノン「貴様みたいな、厄介事の権現はさっさと除霊されて来い!!」
黒サガ「ぎゃー、痛い!痛い!!放せ愚弟!!!」
カノン「シャカ、一刻も早く除霊しろ!!」
引っつかんだ手の中で、暴れる黒サガをシャカに突きつける。
数珠を手に絡め、お経を読み始めるシャカ。
残りは、その様を見物。
ミロ「あれ、なあ何でカノンはあの黒サガに触れるんだ?さっきオレが触ろうとしたら、手が突き抜けたぞ」
ガッツリつかんで、シャカに突きつけているカノンを指差して疑問を口にするのはミロ。
カミュ「お前、カノンの話しも聞かずに遊んでいたのか?」
ミロ「だって、あんな変な生き物触ってみたいって思うだろ?」
カミュ「触って何かに感染されたらどうするつもりだ?」
黒サガ「私は病原体かー!!」
シャカ「静かにしたまえ」
カノン「大人しく成仏しろ」
ミロ「えー、平気だと思うけどな。ほら、カノンだって触ってるじゃん」
カミュ「黒ミロになっても私は知らんぞ」
アフロディーテ「元に頭がないから、サガが黒くなるよりマシなんじゃないか?」
カミュ「ああ、それは言えているかも知れませんね」
ミロ「酷でー!」
デスマスク「逆に、黒サガの頭のいい部分が足されて今より良くなるかもしんねーぞ」
ムウ「それはいいかもしませんね。ミロ、ちょっと憑けて貰ってきたらいかがです?」
ミロ「お前らなー!!」
シュラ「落ち着けミロ。それで、何でミロには触れなくてもカノンやデスマスクは触れるんだ?」
シオン「体質、というか生まれつきの能力であろう」
シュラ「生まれつきですか?」
シオン「黄金聖闘士やアテナともなればあの黒サガほどの力を持った幽霊?なら簡単に見ることができる。だが、触れたり・対抗するにはそれなりの能力がいる。解りやすく言うなら、カミュのように完全に凍気を操るには生来の資質が必要となるが、多少ならばお前たちにでも凍気を生み出すことが出来るのと同じだな。ミロ、お前には精神に作用する能力がないのであろう。だから、見ることは出来てもそれ以上は無理なのであろう」
ミロ「ちぇー」
アイオリア「そうすると、カノンとデスマスク以外は誰が触れるんですか?」
シオン「触れるとすれば後はシャカできるであろう。それと・・・ムウ、そなたはどうだ?」
ムウ「私は、テレキネシスとかで攻撃は出来ますが、ああやって触るのは無理ですね。聖衣の墓場の幽霊は白骨死体に憑いているから殴れましたけど」
童虎「そういう、シオンお主はどうなんじゃ?」
シオン「私もムウと同じだな。直接は触れん」
沙織「ねえ、私はどうかしら?」
シオン「アテナは神ですから、触ろうと思えば簡単に触れられるるでしょう」
アイオロス「でも、アレに触るのは止めましょうね」
カノンのところに触りに行こうとする沙織の首根っこを押さえて引き戻す。
沙織「え〜(不満) ちょっとだけだから」
童虎「今度もう少し害のないので試めされた方が良いじゃろう。今日は諦めなされ」
孫の頭をなぜるように、撫ぜる。
沙織「朝早くから起こされたのに〜。まだ眠いの我慢して起きているんだから、触るくらいいいじゃない」
アフロディーテ「アテナ。代わりといっては何ですが、眠気覚ましに何かお茶でもお入れしましょうか?」
沙織「本当?じゃあ、アフロディーテ特製のハーブティーをお願い」
アフロディーテ「解りました」
シュラ「一人では持てないだろ。オレも手伝おう」
アルデバラン「オレも」
沙織「お願いねv」
アフロディーテについて、2人も出て行くのを見送ってからシオンを振り返る。
沙織「ねえ、シオン。さっきカノンがあの黒サガの半分の悪霊だって言っていたけど、その悪霊はどっから出てきたの?」
シオン「・・・・・・・・聖域は歴史が長いですからね。その中で様々な思いを抱えて死んでいった者が多いのですよ」
童虎「聖闘士になるという夢を半ばに倒れた者や敵に敗れたもの、その為に大切な者を守れなかった者。生涯の終わりに、決して笑って死んだものは多くはないんですじゃ」
シオン「そして、その死を前にしたときに人の思いは決して弱くはありません。・・・心からの本心からの、魂の絶叫。1人の想いでは魂を地上に焼き付けるのが精一杯であっても、長い年月をかけてそれは1つの思念となることがあるのです」
語る長老の目は悲しげに揺れる。
シオン「まして先の戦いでは、私たちの時代の聖戦では私と童虎を残して全ての聖闘士は死に絶えました。残った思いはさぞかし多かったでしょう。きっと、1つの形を作るほどに・・・」
遠い、遠い所をシオンも童虎も見ている。
沙織「・・・そう。でも、流石は2人の同僚ね!!」
シオン・童虎「は?」
沙織「黒サガは確かに私に拳を向けたけれど、それは地上を思ってだわ。地上を守るのに、私じゃ役不足だと思ったからでしょう?神を信じられなくなっても、地上を愛した心は忘れていなかったんですもの」
慈愛に満ちた笑顔。
沙織「それに、サガだってそうよ。大丈夫なんだろうか?って心配しすぎていたのね。これから生まれてくる、小さな女神で耐えれるんだろうかって、心配しすぎて黒サガを呼んじゃったのよ」
シオン「・・・アテナ」
沙織「根っこは、みんな地上が大好きって事でしょう」
黒サガ「そう思うなら私の抹消止めんかー!!!」
あらん限りの怒声を張り上げる黒サガ。
最初に連れてこられた時よりは、サイズが全体に小さくなって、フラフラしているが、まだ元気。
沙織「あら、アナタまだいたの?」
黒サガ「そう簡単に消えて堪るか!」
シャカ「フム、私の読経をこれだけ聞いて、元気に成仏しないとすると除霊は無理か」
数珠を下げ、念仏を止める。
カノン「除霊はできないのか?」
シャカ「ウム、サガの生霊部分が混じっているから、悪霊のところを浄化しようとしても残った生霊の部分が引き止めてしまうようだ。分離させることも出来ないほど混じってしまったようだしな。今すぐ成仏させようと思うと、あそこで呑気に寝続けているサガを殺すしかない」
黒サガ「わーっはははははは!!私は不滅だー!」
カノン「煩い」
一発殴って黙らせる。
シオン「態々生き返らせた上に、仕事の出来るのに減られるのは困るのでその案は却下だな。しかし、除霊ができないとするとはどうしたものか」
童虎「う〜む。常にカノンと一緒に行動させるかのう」
シオン「それでは、能率が悪い」
シオン様、あんたは仕事のことしか考えていないんですか?
アイオロス「じゃあ、シャカとデスマスクのどちらかをつけておくってのは?」
ミロ「デスマスクじゃ面白がって、黒をサガの中に入れるんじゃないか?」
アイオリア「ああ、やりそうだな」
アルデバラン「そういえば来る途中で『騒動が起きた方が面白い』と言っていたな」
カミュ「それは、入れるな」
ムウ「入れますね」
シャカ「監視につけて裏切る。蟹のやりそうなことだ」
デスマスク「お前らの年代がオレに対してどういう認識持っているかよーく解ったわ!そんなにお望みなら、オレがサガの側にいろって言われたら、即座に黒サガにしてやる!」
カノン「デスマスク、お前イジメられっ子か?」
黒サガ「可愛げがない分、イジメるのになんら良心が痛まないんだろう」
カノン「ああ、なるほど。しかもアイツらよりは、デスマスクは年上だしな」
アイオロス「頑張れ、デスマスク!」
デスマスク「アンタらも助けようとは思わねーのかよ!」
黒サガ「貴様、さっき自分の保身のために私を売っただろう」
カノン「別に、お前助けても利益ないし」
アイオロス「そのくらい自分で何とかしろ!!聖闘士だろ」
双子は己の利害で、アイオロスは根性論で助けてはくれなかった。
デスマスク「相手も聖闘士だっつーの!この冷血漢どもが!」
沙織「デスマスクが虐められている様って、見ていて楽しいわ〜」
カミュ「お望みでしたらもう少し追い詰めますが」
ムウ「ええ、ちょっと自殺寸前まで」
沙織「え、そう。じゃあ、お願いしようかしらv」
そこへ、聖域の良心アルデバランと常識のシュラが戻ってきた。
シュラ「アテナ、どう顔戯れもそれくらいにしてやってください。いくらデスマスクでも哀れです」
アフロディーテ「普段から憎まれっ子の人生歩んでいるんだから自業自得だろ。放って置け、シュラ」
アルデバラン「アフロディーテ、それくらいに。な。ほら、お前たちもやり過ぎだぞ」
それぞれにお茶を配りながら、止めるように止めるアルデバラン。
シュラ「それで、まだ除霊終わっていなかったのですか?」
視線の先には、カノンに捕まった黒サガ(霧状)。シュラも、13年間共にいた"サガ"に対して、少々複雑な目を向ける。
カノン「ああ。除霊しようと思うと、サガを殺さなくてはならないらしい。半分がサガの生霊でできているせいで」
シュラ「それは・・・」
カノン「それで、どうするかと言う話になって誰かを側につけておくにしても、デスマスクを付けたら、黒サガをサガに憑けるだろうと言うことでデスマスクは虐められていたと言うわけだ。本人もやると宣言したことだしな」
シュラ「放って置けばよかった」
アフロディーテ「だから言っただろう」
デスマスク「お前らなー!」
同期の桜にも見捨てられる蟹。
アルデバラン「その、デスマスクに任せる任せないは別に、何か良い案はないのか?」
シャカ「一番簡単なのが、サガを殺すことだ」
アルデバラン「それは却下されたんだろう!」
シャカ「チッ」
アルデバラン「チッ、じゃない!!」
シュラ「実はサガが嫌いか、シャカ」
シャカ「いや、私の読経をはね返したアレを成仏させれるなら、多少の犠牲を伴っても成仏させてやろうと思っただけだ」
除霊できなかったことが、プライドを傷つけたらしい。
アフロディーテ「なあ、除霊はサガを殺さなくてはならいなら、封印は?」
一同「は?」
アフロディーテ「ほら、アテナの封印。ポセイドンやハーデスを封じ込めていたアレ。あれなら、殺さずにすむんじゃないのか?両方を」
沙織「狽!」
アフロディーテ「試していないなら、やってみたら如何です?」
沙織「そうね。シオン箱とお札」
黒サガ「アフロディーテ、私を裏切るのか!?」
アフロディーテ「殺されないように配慮してあるでしょう。私がアナタに出来る精一杯ですよ」
黒サガ「動けなくなれば一緒だ!」
アフロディーテ「でも、それだけのことはやったんですから諦めてください」
南〜無〜と手を合わせる。アフロディーテかなりドライだ。
黒サガ「シュラ!」
シュラ「え、あ・・・その・・・・・・・・お元気で。えっと、白サガの補佐は頑張るので気にせずに寝てください」
黒サガ「それだけかー!!言うことは!こら、目をそらすな!!」
カノン「諦めろ。ホレ、ジジイが箱とお札持ってきたぞ。年貢の納め時だ。大人しくしろ。13年間好き勝手に生きたんだ。そろそろ、巻き込んだ人間全員に平穏を帰してやれ」
黒サガ「い〜や〜だ〜!」
必死で身体(霧状だけど)をねじって逃げようと暴れる。が、カノンに箱に放り込まれ蓋が閉められる。
黒サガ「こらー!地上の平和を愛するアテナが、生き物を虐待していいと思っているのか!?」
沙織「アナタ生きてないじゃない。半分は」
黒サガ「半分は生きているぞ!」
シオン「アテナ、お札です」
沙織「ありがとう。ま、私を殺そうとしたのが運の尽きよ。悔しかったら、そこから出て私の命を狙いに来てご覧なさい。ほーほほほほほっ」
13年前の復讐とばかりに、黒サガが放り込まれた箱にお札を貼り付ける。
すると、箱の中からは音がしなくなった。
正確には、小さく「ZZZZ〜」と言う音がするようになった。
ポセイドンの際も眠っていたからどうやら、お札を貼られると強制的に眠らされるらしい。
沙織「で、コレでサガに影響がないかよね。問題は」
アイオロス「まだ起きないけど、カノンよっぽど殴り場所悪かったんじゃないか?」
カノン「知るか。ブラシで殴ったくらいだ」
その際、そのブラシの柄はへし折れた。
シュラ「サガ、サガ。起きてください」
サガ「ZZZZZ〜」
アフロディーテ「黒サガが眠ったことで、こちらにも影響があったのか?」
カノン「いいや、コイツは寝つきが悪いくせに一度寝ると中々起きない。それだけだ」
そういうと、カノンはサガの胸倉を掴んで往復ビンタを食らわした。
ミロ「一回、二回、三回、」
カミュ「回数を数えるな!」
アイオリア「四回、五回、六回」
アルデバラン「お前も数えるな。人の不幸を」
シャカ「合計10回か」
ムウ「なかなか良い音がしていましたね」
アフロディーテ「他に何か言うことはないのか、君たちは」
嫌な意味でだけ冷静な年少組み(アルデバラン除)に呆れる残り。
サガ「ん〜〜、カノン?」
カノン「起きたか?」
サガ「もしかして私寝過ごしました?」
カノン「・・・・・・・・・・・・まあな」
サガ「?」
余りにマイペースな兄に、残っていた気力もつきかけるカノン。そんな双子の弟のキョトンと眺めるサガ。
沙織「サガ、何か身体に変調ない?」
サガ「え、アテナ?それに、ここは教皇の間?」
カノン「それは後で説明してやるからアテナの問いに答えろ」
サガ「変調ですか。・・・・・・・・後頭部と頬が痛いです」
沙織「それはカノンに謝ってもらうとして、他は?」
サガ「いえ、特に何もないですけど」
沙織「そう、良かった」
サガ「何かありました?」
一同「色々な!」
知らぬが仏とはよく言ったもの。
一堂の棘のある応対にも首をかしげる。
その後、一切合財カノンに話を聞かされ落ち込むサガの姿が見られたそうだ。
もう1つ言うと、カノンは結局徹夜6連続をして疲れ果てて「先日の詫びをしろ」と全ての仕事をサガに押し付けたのだった。
そんな双子を見ながら、黄金聖闘士たちは笑っていた。
「平和だ」と。
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