天頂より降り注ぐ太陽を受け、白亜の大理石は白く輝く。 砕け白砂となりて大地に還りし砂も、風に流れされ移ろう。 大地を彩るは、赤く焼けた土、白き砂、そして命の証たる大樹並びし森。 地に根差し、生きる者たち。 彼らの命の息吹きが、巡る命をの詩を奏でる。
† † †
少し埃っぽい風が、いくつかの立ち並んだ家の間を吹き抜けた。 1つは他のより少し大きいのが、青銅聖闘士用の休憩小屋。 何かあれば、この小屋に集まって話したり、一緒に食事ができるようになっている。 その周囲にあるのは、青銅聖闘士が、大概2人1組で住んでいる家である。 一応、白銀聖闘士と青銅聖闘士は階級ごとに居住地が固まっている。 もちろん、絶対休憩小屋の近くに住まなければならないという決まりはないが、大概の者はこの付近に住んでいる。 現在青銅聖闘士でこの近くに住んでいないのは、師匠12宮で同居している紫龍・氷河、女子聖闘士のジュネくらいで、他は全員。 瞬は、そのうちの一つをノックして中に入った。 瞬「おはようございます、星華さん」 星華「おはよう、瞬君」 星矢「よう!瞬」 瞬「星矢!何のんきに今頃朝ごはん食べてるのさ!待ち合わせの時間もう、とっくに過ぎているんだよ」 星矢「だって、先起きたばっかだし」 どっかり椅子に腰を下ろしたまま「腹が減っては戦は出来ぬっていうじゃん」と、お皿に盛られた朝食が口の中へと消えていく。 瞬「前も同じこと言ってたよね(怒」 星矢「そうだっけ?」 瞬「そうだよ!」 星華「星矢〜!今日は待ち合わせの時間が遅いって言ってなかった?」 星矢「い、いや、ほら!姉さんがせっかく作ってくれた朝飯食べないって罰当たりじゃん!こんなに美味しいのに!!」 星華「瞬君じゃないけれど、その言い訳は何度目?」 星矢「だって、だって!あ゛〜〜」 星華「お預け!せっかく待っていてくれているんだから、行きなさい!」 星矢「ね、姉さん」 星華「そんな泣きそうな顔してもダメよ」 星矢「そんな!瞬からも何とか言ってくれよ!」 瞬「は〜〜、次回からの待ち合わせは星矢の家にするからね!そうすれば遅刻しようがないんだもんね」 星華「きっと、その方がいいわね。そうしてもらいなさい、星矢」 星矢「え゛〜〜」 瞬「僕が起こしてあげるからねv」 そう言って、ネビュラチェーンが軽やかな音をたてた。 星矢「そんな、朝っぱらからチェーンで襲撃だなんて!!寝坊できねーじゃん!」 瞬「約束のある日に寝坊しない!」 星矢「何を言う!起きなきゃいけないのに起きないでいいときのあの気持ちよさを瞬は知らないのか!」 瞬「そんなもののために僕らは30分も待ってるんじゃないよっ!!宝瓶宮に住み付いてる氷河や、天秤宮に春麗と同居している紫龍ももう来ているんだから!君が遅いせいで、兄さんはもう逃げちゃったよ!これ以上駄々こねるなら、首にチェーン引っかけて連れて行くけど?」 星矢「す、既に締まってます」 瞬「行く?」 コクコクと一生懸命に頷くのでとりあえず、サークルチェーンをしまう。 星矢「たく!本気で絞めやがってさ!行くって!行けばいいんだろ!スクウェアーチェーンが尻に刺さってるから!!(涙」 瞬「何?その恩着せがましい言い方は。言っとくけど、今日森の探検に行こうって言いだしたのは星矢だからね」 星矢「あ、バカ!瞬」 星華「せ〜い〜や〜!!約束は守りなさいって、いつもっていたでしょう!!」 ポカリと一撃頭に振って来る。 聖闘士に痛みなどないに等しいのに、大げさに痛がって見せる。 星矢「姉さん酷い!かわいい弟の頭を力いっぱい殴るなんて!!ああ、痛い!」 星華「嘘おっしゃい!ともかく、これ以上みんなを待たせないように行きなさい」 仁王立ちでイスに座った弟を見下ろし、入口を指さす。 星矢「ちぇ〜〜」 未練がましそうに星華の持っている朝食を見ていたが、これはもらえそうにないと判断すると、渋々扉に向かう。 瞬「じゃあ、行ってきます」 星華「あ、瞬君、これお昼に作ったからみんなで食べて」 瞬「あ、またお弁当作ってくれたんですかvうれしいなぁ」 星華「うちの星矢がお世話になっているんですもの。これくらい大したことないわ」 瞬「じゃあ、遠慮なくみんなで食べさせてもらいますv」 星矢「中身何?」 瞬「お昼までのお楽しみ。君に持たせると、きっとお昼前には全部なくなるから、だめだよ」 奪い取ろうとする星矢を軽やかにかわす。 星矢「ケチ。じゃ、いってきま〜す」 星華「いってらっしゃい。私はいつもの時間にロドリオ村の方に仕事に行くから。帰りも普段の時間ね」 星矢「お〜け〜。気を付けて」 瞬「行ってらっしゃい」 家を出た後も、未だに物欲しそうな目で瞬の持っている弁当を眺めている星矢。 中々のしつこさにに瞬は呆れながら尋ねた。 瞬「そんなに星華さんのご飯美味しい?」 星矢「美味しいぞ!なんたって、素材の味がちゃんとするもん」 瞬「素材の味?」 星矢「うん!もともとオレ食べることが好きだったんだけど、ここ6年の食事事情を振り返ると、益々食い気が増したって気はするなぁ」 瞬「自覚があったんだ。聖域ってそんなに悪いの?」 星矢「聖域がどうかは知らねーよ。自分で作るか、師匠が作ってくれたものってのが基本だから。で、魔鈴さんってさ、すっごい料理下手なのな」 瞬「う〜、まあ、得意そうかと言われると、苦手かもって思うけど」 星矢「つーか、激下手。どんな料理しても、すべて灰になる」 瞬「・・・灰?」 星矢「ああ、真っ黒焦げ。大概中まで炭化」 瞬「・・・・・それ、食べて大丈夫なの?」 星矢「さぁ、大丈夫なんじゃねーの。少なくとも6年間食べ続けたけれど、生きているし。最初は、ちょっとお腹壊したけど」 カラカラ笑う。 星矢「それがスタンダードだとさ、あんな美味しそうな朝飯前にすると食べずにはいられないね!」 瞬「・・・・・・そっか」 ちょっとだけ、星矢が朝ごはんに拘るのができた瞬だった。 普段から御飯をとっても美味しそうに食べていたけれど、そんな経過があったらより美味しいのかもしれない。 幸い、アンドロメダ島では、パンとその日手に入った野菜の塩ゆで等と言った簡素なものではあったけれど、普通の食事だった。 偶に失敗して、酷く焦げたモノは処分していた。 瞬「でも、ごはん食べたいのはわかったから、今度からはその時間だけは見こして起きてね」 星矢「・・・Σあ、紫龍ー!氷河!!おはよう!!」 瞬「こら!ちゃんと誓ってよね!!」 不利な誓いをさせられる前に、ダッシュで逃げた星矢。
氷河「また随分と遅かったな。なんで、一番待ち合わせ場所から遠い12宮の上から降りてくるオレより遅くなるんだ?」 星矢「や〜〜、ベットが気持ちいいのと姉さんの朝飯が美味しくてv」 瞬「だから、今後は集まる時はすべて星矢の家でってことになったから」 星矢「マジで実行する気かよ!?」 瞬「当り前じゃん」 紫龍「まあ、星矢に断る権利はないな」 星矢「紫龍まで!」 氷河「たったの一度も時間までに、待ち合わせ場所に星矢が来ないからだろう」 星矢「う゛〜〜」 瞬「そうだよ。こんな近くに住んでるのに、遅れるなんてさ」 そう言って、瞬は星矢と星華の家と、今いる青銅聖闘士用の休憩小屋を示す。 障害物もないのだから、正味200メートルほどの距離だ。 5分前に起きたって、遅刻しないですむ近さ。 星矢「だって、さ。朝って、苦手だし」 口の中で何やらモゴモゴと、言い訳をしているが、既にその言い訳が通じないのは過去の遅刻の時に証明されている。 犬なら耳を伏せ、尻尾を丸めているだろう風情。 瞬「まあ、何時までも星矢の遅刻癖に文句言っていても仕方がないから行こうか」 氷河「そうだな」 星矢「じゃあ、しゅっぱーつ!」 「勘弁してあげる」と言われたとたん、目を輝かせて、一枚の古ぼけた地図を広げる。 瞬「聖域に森があるなんて、この地図見るまで僕知らなかったよ。なんせ、壊れて遺跡になりかけた建物か、砂しかないイメージだったからね」 星矢「オレも。6年住んでても、訓練生が行ける所なんて知れてるけど、こんなに広いとは思わなかったなぁ」 氷河「一応山・海・森が全て揃っているんだな」 星矢が「今日行こう!」と指さしているのと反対には、海があった。 まあ、聖域が盆地と言うか山脈の間にあるので、海に出るには山を越える必要があるのだが、一応聖域の領地内に海もある。 氷河「お前の知っている範疇て、この赤い線の中だろ?ずいぶん狭いな」 A3より少し大きい目の地図の中央付近に、指で円を作ったくらいの赤い丸がクルリ書かれている。 星矢「そうなんだ。結構、色んな所に入り込んだつもりだったけどなぁ」 6年間で、魔鈴の修行が嫌で逃げ出したり、勉強が嫌で逃げ出したり、何となく逃げ出したりして色んなところにいったものの、それでも10分の1ほどの範囲でしかない。 紫龍「お前が知っているのは、中央だけか」 星矢「そっ」 瞬「この地図で見る限りは、主な施設や市なんかは星矢が知っている範囲だから、生活には困らないね」 紫龍「うむ、他の部分はちょっとした見張り台があるだけか」 星矢「ちょっとこの地図古いらしいから、所々変わってるところもあるかもって言ってたな」 氷河「そう言えば、どこでこんな地図手に入れてきたんだ?」 昨日の夕方、星矢が「明日は探検にくぞー!!」とハイテンションで、休憩小屋で寛いでいた紫龍と一輝を襲撃したのだ。 この青銅聖闘士5人は―神衣聖闘士という階級を作った方がいいような気もするが―聖戦で上げた功績でこの一か月皆が復興に勤しむ間も、のんびり休養していた 。 まあ、生きているのが不思議なくらいの傷を負って帰ってきたので、最初の2週間くらいは、5人揃ってベッドの上だたのだが。 重傷人は一か所にいてくれる方が世話がしやすいと、今集まっている後ろの休憩小屋にベッドを運び込んで、療養生活。 主には、星矢が帰ってきた時に聖域にいた星華と、しばらく紫龍も動かせないということで聖域に連れてこられた春麗が世話をしていた。 あとは、日替わりで他の青銅聖闘士や、たまに白銀聖闘士がやってきた。 ベッドから降りれるようになってからは、戦い以外で聖域に来たことのない4人に、星矢が案内をして暇つぶしをしていたのだ。 星矢「あ、これ?昨日、カノンにもらった。なんでも、カノンの奴昨日が珍しい休みだって、双児宮を通りかかったら宮の整理をしてたんだ。本を陰干ししてるって言ってたけど、これが又面白くない、眠くなりそうな本ばっかり。『なんか面白いのねーの?』って強請ったら、少し考えてからこの地図出してきて、『13年ほど前の大まかな聖域地図だが、青銅のお前が知らんところも多々あるだろう』って、くれた。確かに、オレの知ってる聖域の地図って言ったら、この辺が描いたものだけだからな」 赤丸にロドリオ村の方面へと行く辺りを足した円を指で描く。 瞬「強請ったんだ。・・・じゃあ、これはカノンが作ったのかな?」 太い大雑把な線と太い文字で、12宮や施設、山脈の名前が書いてある。 それに誰かが書き足したのだろう。 所々に、赤い書き込みがある。 特に多いのは中央から離れた位置に点在する×印。 元々は赤いインクだったのだろうが、歳月で赤黒く変色した×とその横に「Κινδυνοσ(危険)」。 その他には「Ρεμα(小川)」や「Νεκροταφειο(墓)」などが書き込まれている。 星矢「かな?『本の間から出てきたものだ』ってくれたんだけど」 広げた地図には、数の差こそあれ全面に渡って書き込みがある。 どうやら書き足した人間は、聖域中を踏破しているらしい。 星矢「よし!オレらも、聖域全踏破だ!!手始めに、森の中のこの一番近いΚινδυνοσ(危険)へ!」 瞬「却下。何だっていきなりそんなピンポイント選ぶのさ!!」 星矢「えー!?なんでだよ、瞬!」 瞬「あのねえ、僕たちはまだ回復しきってないの。とりあえず体が動くようになって、グラード財団の病院に行った時にも言われたでしょう?『脅威的な回復力で、傷は癒えてます。が、本来の肉体の状態には程遠いですね。当分は、大人しく静養が必要です』って」 氷河「そうだぞ、星矢。やっと、まともに動けるようになってきたばかりなのに、今無理をすると元も元のもくあみだ」 紫龍「星華さんが悲しむぞ」 星矢「う゛」 目を覚ました時にまじかで見た姉は、タナトスが見せた映像で見るよりもずっとやつれていた。 眼は赤く充血して、今にも彼女の方が倒れそうなほど真っ青な顔。 今自分に何かあったら、姉は同じ顔をするだろう。 星矢「〜〜〜む」 紫龍「オレは、春麗にあの時と同じ顔はさせたくないぞ」 地上に戻って一昼夜開けた時に、何を思ったのかデスマスクが春麗を連れてきたのだ。 驚いている童虎に、ニヤッと笑って「なぁに、以前滝に落とそうとした詫びってやつですよ」と。 それ以来、星華ともども5人をかいがいしく世話してくれたのだ。 瞬「兄さんもきっと怒るし、何かあったら黄金聖闘士や白銀聖闘士、沙織さんも怒るよ」 星矢「・・・わかったよ。危険印の探検はまた今度にする」 3人(いつかやることには変わり無いんだ) 体が完全に回復した時、トラブルを起こしそうな兄弟をどうやって止めるか3人は軽く頭を悩ました。 なにせ、下手をしたら1人で突っ走る傾向のある星矢だ。 きちんと止めておかないと、きっと1人で行く。 いや、絶対行く。 瞬「どういう危険なのか、今度カノンに確かめとこ」 氷河「まったく、困った物を星矢に与えてくれる」 紫龍「カノンにしてみれば、態々避けるようにと『危険』て書いた所に行くとは思ってなかったんだろうな」 瞬「普通は、避けるよね」 3人『はぁ〜〜〜』 星矢「何出かける前からため息ついてるんだ?」 瞬「何でもない。今日はどこ行こうか?」 氷河「ここから一直線に森に向かうと、崖に行きつくな。μετροはメ・トゥ・ロ?メートルでいいのか?」 星矢「ああ。80メートルから100メートルの間の崖があるって書いてある」 そこには80〜100μετρο(80〜100メートル)と、崖の端から端に⇔の矢印で印を付けて、書き込まれている。 星矢「ジャミアンとやりあって、沙織さんと一緒に落ちたのと同じくらいの崖かな?」 紫龍「落ちたら命の危険があるということだな。そうなると、こっちから迂回してこの丘に行ってみるか?」 瞬「そうだね、天気もいいしお弁当を食べるにはもってこいだよね」 窓の外は、地中海の澄んだ青をしている。 星矢「えー、そんな近い場所よりもっと、こっちの遠いところ行こうぜ!」 紫龍「行ったこともない森にいきなり奥深く入るのは危険だぞ」 氷河「平和なんだ、今日行かなかったからって行けなくなるわけじゃない」 瞬「それに、君が寝坊したせいでお昼が近いんだけど」 星矢「え?あ、ホントだ。じゃあ、今日はその丘にしようか」 氷河「星矢は完全に食い気が一番だな」 瞬「沙織さんも、シャイナさんも、美穂ちゃんも可哀そうだよね」 紫龍「そう言う瞬は、どうなんだ?」 瞬「どうって?」 紫龍「ジュネと、いい雰囲気だって聞いたが」 瞬「なっ!そ、そんなことないよ!ジュネさんは、僕の先輩で、そんなんじゃないし!そう言う紫龍こそ春麗とはどうなのさ?」 紫龍「別に、オレは今までと変わらんさ。老師と春麗、オレがそろっている場所が五老峰から、天秤宮に変わったくらいで」 瞬「・・・それだけ?」 紫龍「そう言えば、沙織さんや星華さん、他の女子聖闘士も入れたら年の近い女性が近くにいてうれしいと言っていたな」 氷河「紫龍も今一つ朴念仁だな」 紫龍「氷河は絵梨衣さんとどうなっているだ?ブルーグラードの女性とも何かあったと聞いているが」 ニヤッと笑った金髪の兄弟にこれでもか!と攻撃する。 氷河「別に。ただの友人さ」 言い切る顔に、「何を言っているんだこいつらは」と言う表情が浮かぶ。 瞬「あ〜あ、ここにも鈍いのが」 紫龍「星矢並みだな」 一輝「全員、ドングリの背競べや五十歩百歩だぞ」 4人『狽ぁ!?』 瞬「兄さん!?」 紫龍「一輝戻ってきたのか?」 一輝「オレが戻ってきたというより、お前達がまだ出かけていなかっただろう」 やれやれ、と肩をすくめて見せる。 瞬「あ、お昼ご飯に帰ってきたの?」 一輝「ああ。まだ体慣らしの段階だが、散歩も済ませたしな」 紫龍「もう少し散歩をするなら、春麗が作ってくれた弁当と星華さんが作ってくれた弁当が食べられるが」 紫龍と瞬の手には、一つずつバスケットがある。 一輝「・・・どこに行くんだ?」 星矢「とりあえず、この×印に行ってみようか・・イテッ!」 紫龍「それはさっき駄目だと言っただろう!」 瞬「こっちの丘に行ってみるんだけど。地図が正しかったら、少し森に入って小川に沿って歩いたら丘に出るみたいなんだ」 先ほどの地図で説明する。 氷河「丘に行きつく前に腹が減ったら、川沿いで食べてもいいしなこの季節」 一輝「なるほど。まあ別に、当初の予定で付いて行っても構わんが」
星矢「も、戻ってきたぁ」 紫龍「はぁっ、はぁっ。随分と時間がかかったな」 瞬「星矢が・・・はぁ・・・途中で変な方に逸れるから・・・はぁ・・・・あんなに迷ったんだよ!」 星矢「つ、つい今までの癖で、・・・動物見ると、捕まえたくなる。晩飯って」 氷河「はぁっ、もう日が沈んだぞ。確実に、門限過ぎたな」 一輝「はぁはぁ、散歩と言うより、樹海探索だったな」 5人とも息を切らせながら、朝通った道を駆け足で青銅聖闘士用の休憩小屋に向かう。 一応、怪我人が夜遅くまでうろつくのはよくないと、何も言わない時の門限は18時と決められていたが、とっくにそんな時間は過ぎている。 瞬「とんだ、散歩に、なっちゃったよっ」 今では弁当の代わりに、ウサギの入ったバスケットを見て苦笑する。 星矢「今日の、収穫は、そのウサギと、説教、なんだろうなぁ」 当初の予定なら、12時はちょっと無理でも、13時には丘について15時ごろには帰路についていた。 帰るのに日暮れまでかかったことの始まりは、途中で星矢が「お腹がすいた!」と、一番最後に朝食を食べたはずにも関わらず駄々をこねて、丘に付く前に食事になった事に起因するだろうか? 川沿いの適当な石に腰を掛けて食事を済ませ出発をした。 地図通りに進めば、その場所からゆっくり歩いても15分も歩けば、付く距離に丘はあった。 途中で、右折の場所に矢印の看板を見て、紫龍と瞬が確認方向を確認していた時、星矢の目の前を野ウサギが、ピョンとはねたのだ。 その瞬間の星矢の目を「白クマが獲物を定めた時の目だった」と、兄弟の一人が語ったのは余談だが。 ウサギにロッキングオンしてしまった星矢が、 星矢「姉さんへの土産ー!!」 と、左折してしまった。 跳ねる水をものともせず、川を突っ切り鬱蒼と茂る森の中へ。 一輝「・・・星矢の奴、行ってしまったが」 そう一輝が我にかえって、残りの弟に声をかけた時には、視界のなかに星矢はいなかった。 紫龍「狽ソょっと待て星矢!お前一番怪我が酷いのにそんなに走るなー!」 と世話焼の紫龍が止める間もなく、星矢に続いて小川を突っ切った。 それにつられて、残りの3人も一緒に森の中へ入って行った。 だから、誰も気づかなかったのだ。 小川の反対側に古くなり、腐って折れたのだろう看板があることに。 Κινδυνοσ(危険) Ιδιαιτερο(立ち入り禁止) Μπροστα Κοιλαδα(この先崖あり) と書かれていたことにも。 いや、案の定というかお約束で、この後星矢とすぐ後を追っていた紫龍が谷に落ちた。 ついでに、その後ろを走っていた氷河は、二人の姿がいきなり消えたので慌てて止まったが、後続は急には止まれない。 一輝と瞬の惰性で突き飛ばされて、氷河も崖下に。 氷河「突き落とすなよ〜」 紫龍「イタタタ。結構な距離落ちたな」 星矢「ど、どいてくれ〜〜。潰れる!」 だが、一番どいてくれと言いたいのは一番最初に落ちたウサギだろう。 合計150キロを超える塊が上に落ちてきたのだから。 むしろ、死んでない当たり、流石は聖域に生息するウサギと褒めてやりたいほどだ。 瞬「3人とも大丈夫?」 一輝「無事か?」 人を突き落としたものの、ちゃっかり無事だった2人が谷底を覗いている。 氷河「オレの方は、異常ないな」 紫龍「ちょっと擦り傷と、打撲か?」 星矢「骨折するかと思ったぞ!」 氷河「お前がウサギなんかに目をくらませて追うからだろう。というか、お前、オレ達と地面の間でよく生きていたなぁ。特に怪我をした様子はないから、脳震盪か?」 氷河は星矢の魔の手に捕まらないよう、目を回したウサギを抱き上げる。 星矢「あっ!それオレの晩飯!」 紫龍「訓練生の時みたいに自己調達じゃないんだから、狩りをしなくてもいいだろう」 瞬「そうだよ!これだけの目にあって生きているんだから、放してあげなよ」 一輝「うむ、その生きること精一杯な様はエスメラルダに似ているな。よし!そのウサギはエスメラルダと名付けよう!!」 氷河「何を言う!それを言うなら、ナターシャでもいいだろう!!」 一輝「何を言う、その顔はエスメラルダっと言う顔だ!」 氷河「そんな離れた所から何がわかる!ナターシャの方が似合っているに決まっている!!」 一輝「何を!」 氷河「何だ!」 紫龍「白熱しているところ悪いが、こいつはオスだ」 氷河から目を回したウサギを抱きとった紫龍の突っ込みに、2人のバトルは終結した。 人間から見れば可愛い外見でも、最愛の女人の名前をオスにつけるのはどうか?という良識が働いたからだ。 瞬「あははは、じゃあ、名前は星矢だね!」 星矢「何だってオレの名前つけるんだよ、瞬!」 瞬「動物に名前つけると愛着が沸くでしょ。そしたら食べようなんて思えないから。それも自分の名前ならひと押しじゃない?」 氷河「ああ、そいつはいいな。星矢、無事か?」 紫龍「すまないな、こっちの星矢が酷いことをして。大丈夫か、星矢」 星矢「星矢、星矢言うな!!」 一輝「では、アクセントを変えて、セイヤと後ろを強くするか?」 星矢「かっこ悪!」 一輝「お前の名前じゃない。あの野兎のセイヤの名前だ」 星矢「変かわんねー!!オレが変な呼び方されてる気しかしねーよ!!」 瞬「ボクもセイヤに触りたいなぁ」 氷河「セイヤはなかなか、柔らかい毛皮がさわり心地いぞ」 紫龍「毛並みは、星矢とセイヤは同じ茶色だな」 星矢「変なアクセントで定着さすな!」 氷河「じゃあ、普通にセイヤ」 紫龍「セイヤで」 星矢「オレの名前から離れろー!!」 瞬「じゃあ、チェーン下ろすから、捉まって上がってきてねvまだ本調子じゃなかったらしくて、前みたいに勝手に引き上げれないから」 星矢「オレの意志ナチュラル無視かぁぁ!?」 4人『うん!(ああ)』 垂らされたチェーンを伝って、まずのウサギを連れた紫龍が。 次に、氷河が上がった。 最後にウサギの改名を騒ぎながら、星矢が上がってきた。 氷河「まだセイヤは目を覚まさないのか?」 瞬「うん、まだだね。ああ、でもこの手触りいいなぁ。すごく気持ちいいv」 紫龍からウサギを受け取って頬ずりする瞬。 一輝は、少し恐る恐る弟の手の中のウサギに触る。 一輝「ウサギに触るのは初めてかもしれないな」 紫龍「え?」 氷河「初めてなのか?」 一輝「日本にいる時に覚えがない以上初めてだ。デスクィーン島ではウサギは生息できなかったんだろう。見たことがない」 紫龍「そうか。環境によってはウサギもいないな」 瞬「アンドロメダ島にはいなかったからボクも、初めて。あ、兄さんも抱いてみます?」 一輝の両手にすっぽりと収まってしまうサイズのウサギ。 一輝「こんな小さくても、生きているんだぁ」 氷河「この春に生まれたんじゃないか?シベリアで見たのより少し小さいが」 紫龍「かもしれん。親離れして1人立ちした直後くらいか?」 瞬「ねえ、。星矢、こんな可愛いのにまだ食べるなんて言うの?」 星矢「そんなこと考えてたらこっちが餓えるんだぞ」 そう言いながらも、覗き込む星矢の目じりは下がっている。 どうやら意識が戻りそうらしく、前足や後ろ脚が動いたり、瞼が震えている。 後ろ脚でスカスカと空を蹴ってみせる。 ヒクヒクと鼻が動く。 パチリと目を開ける。 もしウサギに話すことができたなら、言いたいことは唯一つだろう。 「ぎゃーーーーー!!!!!」 と。 命からがら逃げたのに、目の前に顔があるなど。 上向きに抱っこされていたが、不安定な体勢から根性で一輝の手と腹のあたりを蹴り飛ばして空中へのジャンプ! もしこの瞬間も言葉にすることができたなら、「脱出成功(涙」だろうか。 鬱蒼と茂っている森の切れ目へと、小さな体は渾身の力で飛び降りていく。 そう、森の切れ目へ。 星矢「狽ィちたー!?」 瞬「わぁーー!大丈夫!?」 2人が覗き込んだ先、すなわち先ほど、星矢・紫龍・氷河が落ちた谷。 瞬「わっ、ちょっと、どうしよう!?」 星矢「ど、どうするたって、自分で飛んだし」 瞬「で、でも何で!?」 一輝「そりゃ、捕食者が目の前にいたからだろう?」 星矢を指さして、落ち着いて答える。 紫龍「目が覚めたら、まな板の鯉っという気分だったんだろうな」 瞬「可哀そうに」 星矢「そんなこと言ってる場合かよ!」 星矢はもう一度谷に下りて、ジタジタもがいていたウサギを拾う。 だが、ウサギ頑張る。 彼の持つ二つの武器、長い前歯と強力な後ろ足で捕食者に果敢な抵抗をみせる。 星矢「暴れるなって!イテッ!!あ〜、指かじりやがったコイツ!!」 まあ、必死の抵抗になったら、必ず救われるというわけではないのだが。 腕を体から離して首根っこを持つ、いわゆる、猫つかみで崖の上にあがって来る。 氷河「ん?あれ、星矢」 星矢「その名前で呼ぶなっつーの!」 氷河「違う、人間のお前に言ったんだ」 氷河が、星矢からウサギを取り上げる。 氷河「やっぱり折れてるな。コイツさっきまで骨折なんてしていなかったはずなんだがな」 氷河の腕に移ったとたん大人しくなったウサギの後ろ脚を点検する。 左の足を触ると、「チッ」とも「ヂッ」ともつかない鳴き声をあげた。 どうもさきほどの、150キロの体重が降ってきたのに耐えた時点で、幸運は使い果たしたらしい。 星矢「骨折?」 氷河「みたいだな」 星矢「そうすると、野生では生きていけないからやっぱりオレの晩飯に」 瞬「そんなわけないでしょう!!」 ボカッと瞬が殴る。 氷河「骨折の原因がオレ達にある以上、傷が治るくらいまでは面倒をみるさ。星矢のそばに置いておくと危険だから、先生に頼んで宝瓶宮で」 瞬「そうだね。ボクらの家は星矢ん家と近いから、危ないよね」 紫龍「あとで、薬草を持って行ってやろうな」 一輝「頑張って生き延びるんだぞ」 小さな前足を握り、言い聞かせる一輝の言葉を神妙に聞くウサギ。 紫龍「種族を超えた友情だな」 氷河「とりあえず、こいつの手当てもあるし今日はもう帰るか」 瞬「丘に行くのはまた今度でいいしねvあ、氷河その子バスケットに入れなよ。その方が移動に楽じゃん」 太陽も、何時の間にやら南から、南西へと移動している。 一輝「帰るとするか」 『おう!』と勢いよく返事をした。 一輝「で、誰が地図を持っているんだ?」 星矢「え?オレが道を逸れたときは、オレは持ってなかったよ」 氷河「オレも持っていない」 瞬「えっと、あの時、紫龍とボクで持ってたんだよね?」 紫龍「ああ、オレが持っている」 ポケットから地図を出した。 紫龍「で、現在地は?」 4人『・・・・・・・・・・・・・・・どこ?』 沈黙が落ちる。 出発地点は分かっている。 一つ目を曲がったあたりも、大体覚えている。 でも、その後は? 瞬「・・・いわゆる、遭難ってやつ?」 氷河「このまま、帰り道が分からなければな」 一輝「と、取り敢えず東西南北はどっちだ?」 紫龍「それくらいなら、何とか分かるな。太陽があちらの方にあるから、あっちが南西だろう。そうすると、あの木がある方が南じゃないか?」 一輝「そうすると、あっちが北で、地図の上が北だから・・・・」 森の書かれたいる一帯には、いくつもの崖や谷がある。 どれくらいの距離を走ったのかだけでも覚えていれば、現在地の当たりが付けられるが、距離感も方角もあいまい過ぎて広域範囲で候補地が3つほどある。 一輝「・・・よし!ともかく南に向かうぞ!」 星矢「南に向かてどうするんだよぉ」 一輝「今オレ達に分かるのは、東西南北だけだ。この森の中のどこにいるかも分からん。だが、一つの方角に歩いて行けば必ず、森の終わりはいきつけるはずだ」 紫龍「なるほど。この森を南に南下していくと、朝話していた崖・・・あの麓にに行きつくわけだ」 結構遠い場所に、連なっている崖を指さす。 一輝「そうだ。今度はそこから西に向いて歩いて行けば、いつかは朝通ってきた道に出るはずだ!!」 星矢「じゃあ、今度こそ出発!!」 5人揃って、内心では「何日で帰れるんだろう?」と不安に思っていたが。 † † †
Κινδυνοσ(危険) Ιδιαιτερο(立ち入り禁止) Μπροστα Κοιλαδα(この先崖あり)
結論から言うと、神殿などがある中央部と、樹海の広がる森を隔てる崖に行く前に、地図の中に書き込まれた神殿の遺跡に行きあたり、帰る方向が分かったので日付が変わる前に家にたどり着くことは出来た。 が、小屋に帰りついた時には、捜索隊を出す寸前だった。 休憩小屋のすぐ近くに住んでいる、青銅聖闘士は勿論、辺りには、松明をもった雑兵やらダイダロスをはじめに白銀聖闘士までが、集まっていた。 今日は執務だったはずの、童虎やカミュまでいる。 とても、気軽に「ただいまー」等と言える様子ではない。 瞬「ど、どうしよう」 星矢「どうするって、出てったら怒られるよな?」 氷河「先生のあの顔は確実に怒っている」 紫龍「老師もな」 一輝「フン、師匠に怒られるのがそんなに怖いのか?」 星矢「一輝は魔鈴さんの怖さを知らないからそんなことが言えるんだよ」 「オレの師匠はここにはいないから」と一人気軽に出て行ったが、 那智「一輝!お前今までどこに行っていたんだ!?」 檄「瞬達が帰ってこないんだぞ!」 春麗「一輝さん、紫龍知りませんか(涙目」 星華「せ、星矢も帰ってこないんです(蒼白」 邪武「あんにゃろー!お嬢様を又心配させて、帰って来たら絞めてやる!」 4人が松明の灯りの届かない所で脅えてたが、一輝にあっさりと居場所をばらされて、師匠や兄弟に怒られたのだった。 一人、「師匠がいないから」と余裕を出していた一輝は、後から様子を見に来たシャカに「弟たちの面度くらい、長男が見れなくてどうするのだね?」と3時間ほど説教を受けるはめに。 地図に関しては、翌日、執務前に休憩小屋にカノンがやってきて「お前らの体が本調子になるまでは没収だ」と、取り上げられてしまった。 最後に、氷河が連れて帰ったウサギだが、宝瓶宮を通るた度に黄金聖闘士たちに「セイヤ」と可愛がられているらしい。