シオン「さて、今日お前たちを呼び出した要件は分かっておるな?」
12宮のさらに奥にある、教皇の間。
現在、白銀聖闘士の蜥蜴座のミスティに白鯨座のモーゼスと烏座のジャミアン、矢座のトレミーが呼び出されていた。
玉座には、教皇シオン。
トレミー「はい!ここ3か月5度に渡って地中海海沿岸に出没している海賊からの船の護衛です!!」
モーゼス「報告では今晩あたりが危ないとの伺っておりますので、アテナのお名に恥じないよう、全力で全船の護衛をしてきます!」
シオン「うむ。海域が広いゆえ、本来なら白銀聖闘士をもう2人ほどか、黄金聖闘士を1人付けてやりたいところだが、いかんせ聖戦の痛手の修復に人手不足ゆえ、お前たち4人に任せる。また、テレパシーに敵うとは思えぬが海賊どもの通信手段がかつてより発達しているゆえ、取りこぼしがないよう気をつけよ」
たぶん、生きた化石のシオンが思うよりも科学は発達している。
が、聖域で古代生活をナチュラルにこなしている若者4人も科学に対する認識は似たり寄ったり。
だれもトランシーバーや、携帯と言った文明の利器を思い付かないらしい。
ミスティ「教皇様の命ならば、喜んで。ご心配の種なきよう任務を果たしましょう」
ジャミアン「・・・拝命つかまつります」
シオン「アテナの加護のあらん事を」
† † †
モーゼス「教皇様からの直々の勅命だ!頑張ろうな!!」
トレミー「おう!そして、名誉挽回をするんだ!」
モーゼス「オレ達だって、使えるってことを証明してやろう!」
トレミー「おうー!!って、そこ2人乗りが悪いぞ!」
12宮を降りて、白銀聖闘士用の休憩小屋に向かう道すがら盛り上げるモーゼスとトレミーに対して、特に反応のない残り二人。
ジャミアン「別にそこまで名誉挽回に熱中できる性質じゃねーし。それに・・・」
トレミー「熱中しようぜ!『ちょっと人手が足りないかな?』って時に、期待以上の働きをしたらきっとオレ達ももっとアテナに信用してもらえるぞ!」
ミスティ「もっとも何も、信用0だろう」
モーゼス「確かに知らなかったとはいえ、我々も前科持ちだからなぁ」
トレミー「だからこそ、ここは一つ聖闘士としての真価を発揮しようじゃないか。そして、白銀聖闘士に明るい明日を!!」
ミスティ「聖戦以外で聖闘士の真価ってのもどうかと思うが」
トレミー「う゛・・・・。モ、モーゼス〜〜」
出来るだけ目をそそらしていた事実に、傷口が痛むトレミー。
味方のモーゼスに泣きつく。
モーゼス「な、泣くな。今からだってきっと大丈夫だ。ミスティ!」
ミスティ「事実だろう。今役に立ったって、遅い」
と、丸でやる気を出さない。
むしろ、「夜の警備なんて、肌が荒れる」と彼の頭の中は美容の方が勅命より大きな割合を占めている。
トレミー「で、でも、頑張れば」
ミスティ「君は、あの青銅聖闘士に勝てると思うのか?彼らを抜いて、聖闘士としてアテナの役に立つなど。奇蹟率100%の神殺しどもに」
トレミー「・・・・・・・無理」
最後の白銀聖闘士として対峙したトレミー。
白銀聖闘士では一番最後の彼らの実力を知っている。
あの時だって勝てる気がしなかったのが、今は言うまでもあるまい。
自分を奮い立たせても、正直に無理とわかっていた。
ミスティ「ほら、みたことか。あんな化け物と張り合おうと言うのとが間違っているんだよ。奴らを押しのけて、アテナの信頼を勝ち得るなんて無理だね」
勝ち誇って、鼻で笑うミスティ。
トレミーは地団太を踏んで何かを言い返そうとするが、ミスティの言い分も最もで言葉がうまく出てこない。
癇癪を起しかけるトレミーに、モーゼスはソッと加勢してやった。
モーゼス「・・・だからって青銅はおろか一般人にすら出し抜かれたら、本当の強さも何もないよな」
何気なさを装いつつ、過去の星矢たち討伐に行って痛い目にあった事実をちらつかせる。
読み通り、ミスティは見事に固まった。
止めとばかりに、畳みかける。
モーゼス「これ以上ヘマやったら蟹座様みたいに聖衣に見放されるかも。ああ、きっとそうなったら、聖闘士失格。雑兵に戻るか殺処分だよなぁ」
ミスティ「お前たち何をやっているんだ!?モーゼス!さあ!任務達成のためにも帰って作戦を立てるぞ!!トレミーも、ジャミアンもだ!」
拳を握り締めて、モーゼスの肩を揺さぶる。
モーゼス、ミスティの操縦方法を心得てる模様。
モーゼス「おまえ、やる気がなかったんじゃ?」
ミスティ「そんなわけあるか!教皇の勅命には全力投球に決まっているだろう!なあ、トレミー!」
トレミー「だよな!!モーゼスもやるぞ!!ほら、ジャミアンも!」
「分かった、分かった」という顔で笑って、付いてくるモーゼスとは対照的に、ジャミアンはその場に立ち止まったままだった。
無言で、地面を見ている。
ジャミアン「・・・・・・・・・・」
トレミー「どうしたんだ?」
教皇の間にいる時から顔色が悪かったし、話にも入ってこなかった。
今や明らかに、落ち込み気味のジャミアン。
モーゼス「どうした?」
ミスティ「そんな顔でも夜更かしによる肌荒れは気になるか?」
モーゼス「ミスティ!!」
トレミー「ジャミアン、気にするな。お前が肌荒れを気にしてたって誰も笑わないぞ!」
ミスティ「私は笑う!!」
モーゼス・トレミー「可哀そうなこと言うな!!」
ジャミアン「お前らの気遣いの方が痛い。オレが、気にしているのはそうじゃない・・・」
3人の促すような視線に、やっと重い口を開いた。
ジャミアン「・・・・・・オレの兄弟たちって、鳥目なんだよな」
トレミー「そりゃ」
モーゼス「まあ」
ミスティ「鳥だし」
いきなりの当り前え過ぎる言葉の意図が分からずに、顔を見合せ首をかしげつつ交互に答える。
ジャミアン「鳥は夜目が利かねーから夜飛べねーんだよ!!」
3人『Σえーーー!?』
ミスティ「じゃあ、何かね?君は夜は役立たずってことか!?」
モーゼス「今までの任務はどうやってこなしてきたんだ!」
トレミー「つーか、アテナ誘拐と星矢抹殺の時夜でも、お前のカラス飛んでなかったか?」
ジャミアン「あんときゃ、アテナ1人か星矢の2人だけ!そんな広範囲じゃねーから、オレの小宇宙で兄弟たちも動いてくれるんだよ!それが地中海一帯って無理っつーの!黄金聖闘士様じゃあるまいしオレの小宇宙はそんなに大きくねー(涙)しがない一白銀聖闘士に過ぎないんだー」
トレミー「で、でも、カラスで聖域まで運ぼうとしたんじゃ?」
ジャミアン「聖域は動かねーの!海の上をプカプカ移動している船や、どっから来るか分からねー海賊船と違って!!そこ目指してオレも一緒に移動すりゃカラスも動けるさ」
つまり、ジャミアンの夜の攻撃範囲は、自分の小宇宙を感じてカラスが動いてくれる範疇に限られるということである。
ジャミアン「昼ならあいつらの視覚確保に使ってる小宇宙がいらねーから、もっと広範囲に飛べるけど!夜に小宇宙の補助なしで飛ばしたら、壁にぶつかるは、地面に向かって飛ぶは、最後にはキレてオレに襲いかかってきたんだ!」
重い沈黙が落ちた。
それぞれの内心に「カラスに手向かわれたんだ」や「攻撃手段が他人任せというのが問題なのでは?」、「確かに、普通の聖衣の資格選定は昼だが・・・」と銘々思うところを押し殺した沈黙。
ミスティ「・・・あ゛〜〜、私頑張るから」
トレミー「う、うん。オレも頑張るよ!」
モーゼス「大丈夫だ。オレ達のこと頼ってくれていいからな」
トレミー「何時でも呼んでくれ」
涙目を強引に拭うジャミアンに一生懸命言葉をかける。
内心、「ぎりぎりの人数で、役立たず一人。この任務も失敗かも」は飲み下し。
地平線のに浮かび始めた月と、地平線化へと沈みゆく太陽とがその様を見ていた。
† † †
そんな不安いっぱいで始まった任務だったが、意外にもうまく行った。
世界有数、おそらく本日地中海を巡っている客船の中で一番高級な客船に白銀聖闘士4名はいた。
トレミー「やっぱり一番高い奴を襲うかと思って目を付けたけど、ホントに襲ったな」
ミスティ「私の言った通りだろう。やはり一番金になるのを襲う!1回で稼ぐにはこれだ!!」
ジャミアン「お前、実際に実行しようと思ったことあんのか?その自信」
ミスティ「フッ、世の中の小悪党の考えることなどたかが知れている!この私の頭脳を持って、分からぬはずがない!!」
ジャミアン「正誤はともかく、ま、ミスティの言った通り、兄弟たちに見張っててもらってよかったぜv」
モーゼ「なんだか簡単すぎるくらい、簡単に終わったな」
ジャミアン「そりゃ、奴らが乗り込んだ時点でテレポーテーションでオレらが駆け付けたせいじゃん。危なそうな客船、兄弟たちに見張ってもらって、異変があったら駆けつけるで」
ミスティ「私と言うブレーンがいたことが不運だね」
トレミー「ま、これで教皇からお褒めの言葉も頂けるし、アテナへの名誉も少しは挽回できたよなvv」
ミスティ「完璧な配置で、完全勝利。この私の信条に合わせた完璧な勝利だ。他の奴らか雑兵に落とされようが、聖衣没収殺処分だろうが、これで私たちの身は安泰だ。フッ、作戦を考えた私を褒め称えていいぞ」
3人『いや、遠慮しとく』
唱和して断った3人の足元には、気絶して10人程が縛り倒してある。
ついでに、乗員乗客は、異様な集団に引きまくって遠巻きに、限りなく目を合わさないように4人を見ている。
モーゼス「にしても、この大きな船に対して随分と少ない人数で襲撃したな」
ジャミアン「ん〜、どうやら、何かあったらこれでドカンッて脅すつもりだったみたいだぜ」
リーダっぽい男の懐から、数束のダイナマイトを押収する。
トレミー「ええー!そんなの使ったら、一般人なんだから自分も死ぬじゃん!」
ミスティ「少数で襲おうと思ったらそう言う手でも使わなきゃ無理だったんだろ。ま、聖闘士の前では無意味だがね」
ジャミアン「普通はそんなの想定して作戦立てないわな」
モーゼス「ジャミアン、それは、今頃ご到着の警備船の人たちに渡しとけ」
こっちにまっすぐ向かってくる巡視船。
ミスティ「私達が行っても、捕まらないか?」
モーゼス「は?」
ミスティ「私たちの格好を見てみろ!」
自分の体を見下ろせば、そこには白銀に輝く、己の誇りでもある白銀聖衣。
・・・・・・・・・そう、白銀聖衣を装着している。
どこからどう見たって、「これでもか!」と言うわんばかりに武装。
奇人変人の称号も付いてくるかもねvなくらい、特異な格好である。
モーゼス「・・あ〜、・多分、大丈夫だろう。アテナも教皇もその辺は通達してくれているって聞いてる」
ミスティ「お役所仕事によくある、通達ミスの場合は?」
ジャミアン「捕まるんじゃね」
ミスティ「君達だけで行きたまえ!私はここに残っている!」
トレミー「そんな警戒しなくても、捕まんないって」
ミスティ「捕まったらどうするつもりだ!私は堪えられないぞ!!牢屋の臭い飯にも、腐臭に雨漏り・看守の下品な言葉に暴力満載の牢屋など!この美の化身が行くところではない!!」
ジャミアン「くさい飯はともかく」
トレミー「他のところはちょっと誇張じゃないか?」
モーゼス「完全に現在の刑務所と昔の牢獄一緒にしているな。第一、看守の暴力如き蚊に刺されたほども痛くないだろう!!」
ミスティ「気分の問題だ。ともかく!私はそんな可能性を試したくはないから、君達だけで行け。なお、一応の警告をしたのだから、助けにはいかない。何があろうと」
トレミー「・・・・・・じゃあ、2人とも行って来て。オレ、ミスティと待ってるからvv」
ジャミアン&モーゼス『おい』
「えへへ」とミスティに付いたトレミー。
ジャミアン「んな、分けないって否定して行くのは嫌がるなよ」
トレミー「や〜、もしもの場合みんなで捕まっても意味ないじゃん。それなら、動けるのが残っていた方がいいだろ?Σあ!それに、コイツらの見張りもいるし!!な、なっ、モーゼスだってそう思うよな?」
モーゼス「そんなに嫌か。冷静に考えて、何をそんなに2人は心配をしているんだ。そこいらの警備船に乗っている人間に白銀聖闘士をどうこうできるとは思えないんだが。何かあれば、音速で逃げればすむだろう」
やれやれと、肩をすくめて、ジャミアンを連れて乗り込んで切る警備兵のところへ行く。
その場にしゃがみこんで、一応主張したように、犯人グループを縛った綱を持って2人を見守るトレミー。
手すりにもたれながら、月夜の映る海を見ているミスティ。
何かあったら、ここから聖域目指して振り返ることなくトンズラしますと言わんばかりに。
トレミー「なあ、ミスティ」
ミスティ「なに?やっぱり、2人捕まった?」
トレミー「ん〜ん。普通に話してる。ちょっと最初に驚いた見だけど、警棒とかも出す様子ないから、ちゃんと話通ってたみたいだよ。だから、欄干に足かけなくていいよ」
ミスティ「声をから、てっきり"逃げろ"と言うのかと思ったじゃないか。じゃあ、なに?」
トレミー「うん。アテナ、喜ばれるかな?」
ミスティ「ふんっ。あんな小娘が喜ぶかは知ったことではないが、教皇様には好印象だな!」
トレミー「"あんな小娘"って!お前なぁ!!オレ達の女神だぜ。教皇様より偉いんだぜ」
ミスティ「そう。あんな小娘が女神と言うだけで私の美貌を上回るなど!!ええぃ、許せん!!!」
トレミー「・・・・・・お前が、アテナに嫌に好戦的なのってそのせいなの?」
ミスティ「それ以外何がある?」
トレミー「いや・・・お前なら、ないね。うん、ゴメン。バカなこと聞いた」
ミスティ「大体。私の方が美しいと思わないか?それに、あんな未完成女神など、魚座様や乙女座の方にも劣る!」
トレミー「・・・・・・」
個人的に、「ミスティよりは大人な黄金聖闘士様の方が美人だと思う」や「何よりは女性のアテナが一番可愛い」と主張したいと思ったが、「雄弁は銀、沈黙は金」を本能で理解して、実行した。
普段、結構口が軽いトレミーのだが。
何せ、この友人は美貌に関して、それはそれは執念深い。
訓練中に顔に着いた小傷、3日もあれば塞がるような奴に対してすら何年も賠償請求をするのである。
白銀聖闘士の中には誰も払ったことはないが、実際雑兵や青銅には払わされたのがいるらしい。
何より、ここで本音を駄々漏れにした日には、取り敢えずは海に蹴落とされる。
正直、こんな地中海ど真ん中に、金属装甲で落ちたくはない。
たぶん小宇宙を燃やしたら浮かびあがれるだろうけど、万が一を考えると恐ろしい。
水死体は、死体の中でもエグさ満点、新人刑事は必ず吐くとか聞いたことがあること思えば、そんな風にはなりたくない!
ミスティ「・・・トレミー」
トレミー「あ、えーっと、うん、お前も美人だぜ。青白く、ブヨブヨになってない!」
ミスティ「訳の分からない台詞と、私が美人と言う事実、動かざる真実混同するな!まるでこの美しい私が水死体になったような言い方ではないか!」
トレミー「煤iギクッ)な、何にを根拠に」
ミスティ「何を考えていたのかは後で聞くとして、見てみろ」
トレミー「へ?」
ミスティ「空が赤い」
トレミー「・・・は?」
ミスティ「何かが燃えている」
トレミー「何だって!?」
慌ててたちが上がって、ミスティと同じ方角を見ると
月と星以外の赤い光が、暗い海色を射している。
トレミー「・・・・・・そんな」
ミスティ「モーゼス!ジャミアン!!」
鋭い仲間の声に、2人が欄干から落ちかねない勢いで駆け寄ってきた。
モーゼス「あれ・・・は」
ジャミアン「Σおい!兄弟たち!!」
見張りを解いて、そばに待機させていたカラスに呼びかける。
夜の暗さの中、もうひと回り暗い塊が幾つも飛び立つ。
4人は、彼らの垂らす紐に迷わず捕まる。
ジャミアン「ちくしょう!こっちは囮かよ!!」
† † †
ミスティ「何でカラスの見張りを解いたりしたんだ!!」
ジャミアン「アイツら捕まえた時に、お前らだって『無駄に労力使うことないってv』って言ったじゃねーか!!」
モーゼス「今さらギャーギャー言っても仕方がない!!それよりも、もっとスピードでないのか!?この早さでは、着いた時には海賊に逃げられてるぞ!!」
ジャミアン「無茶言うなー!!フル装備の男4人運んでるんだぞ!コレが最大速度だっつーの!!嫌なら、海泳いでけ!」
トレミー「ああ、やっぱりオレ達のやる事にはオチがあるんだ。簡単だって思ったんだ。どーせ、どーせ期待なんかされてなくて、失敗しても「やっぱりな」っで済ませられるんだー(涙)先まで煌々と照ってたくせに月だっていつのまにか隠れて、オレらのこと見捨ててるー!!」
ミスティ「まだ失敗したと決まったわけではない!その負け犬根性捨てろ!!!」
トレミー「だって、モーゼスだって言ってるじゃん!『着いた時には逃げられてる』って!!やっぱ失敗じゃん!!」
ミスティ「その場合は、地獄の底まで追いかけて行って捕まえれば任務達成だ!!」
モーゼス「言っておくが任務は『客船の護衛』が最大優先事項だ。海賊退治は次点だということを忘れるな。既に一つ目の任務は達成不可能な状態だ」
トレミー「ほらみろー!!」
ジャミアン「なあ、オレ今思ったんだけど」
ミスティ「なんだ!?何か逃げるいい案でも思い浮かんだか?」
モーゼス「逃げるな!!」
ミスティ「何を言うか!任務達成不可能なら、如何に教皇様やアテナに怒られないか考えるのが建設的だろう!」
モーゼス「だったら与えられた任務を精一杯こなせ!」
ミスティ「既に失敗したモノはどうしようもないだろ!しかも、あんなに燃えているんだぞ!!たどり着いた所で消火活動しても、燃えた物は元には戻らない!!」
モーゼス「だからと言って逃げる案を出してどうする!!」
ミスティ「私の身が安泰だ!!」
ジャミアン「言い争ってんじゃんーよ!人の話聞け!!」
ミスティ「だからなんだっ!?」
ジャミアン「前にミスティ、お前モーゼスが日本で海を割って紫龍を連れてきたって言ってたよな?」
ミスティ「ああ!」
ジャミアン「だったら、兄弟たちに運んでもらうより海割ってオレらが走った方が早いんじゃね?」
ミスティ&トレミー『それだー!!』
モーゼス「無理だ」
トレミー「どうして!?」
ミスティ「まさか、足場が悪から等と言うつもりじゃないだろうな?」
モーゼス「そんな訳ないだろう!ちょっと想像してみろ。今ここから一直線に海を割ったとしてあの船はどうなる?」
トレミー「そりゃ、ここから船までの道ができる」
モーゼス「道ができるだろうな。海底まで落ちてきた船への」
ミスティ&ジャミアン『あ゛』
トレミー「へ?」
モーゼス「船の下の水もなくなるということだ!」
水と言う物質があるから船は水の上に浮いている。
その支えている物質を取り除き、地球からの重力がかかった船はどうなる?
トレミー「あ゛」
モーゼス「だから無理なんだ。。その方法は最初に考えたに決まっているだろう」
ジャミアン「良い手だと思ったんだけどなぁ」
ミスティ「黄金聖闘士のムウ様にも追いついたこの私が、ここが地面でないばっかりに、たかが客船にもなかなか追いつけないとは!!」
トレミー「へー、ムウ様にも追いついたんだ」
ミスティ「当然だ!テレポーテーションでな!!って、テレポーテーション?」
4人の間に落ちた沈黙の合間に、「カァー」と鳴いたカラスの声が小馬鹿にするような雰囲気を持っていたのは気のせいではあるまい。
トレミー「何でこんなに燃えてるんだー!!」
テレポーテーションで船についての第一声。
かなり広いデッキの半分は火に覆われている。
今のところ表面だけが燃えて、船が即刻沈むという気配はないがこの勢いで船内にまで燃え広がれば時間の問題になるだろう。
しかも、水は周囲に沢山あれど、周囲で銃を乱射する男どもがいては悠長に水を消そうとする人もいない。
モーゼス「驚いている暇があったら水掛けろ!!」
どこかで拾ったのか、バケツで海水をかける。
ジュゴワッ!!
盛大な音とともに、炎はさらに燃え上がった。
モーゼス「は?」
トレミー「お前!何かけたんだよ!?」
モーゼス「何って海水に決まっているだろ!今そこで汲んだんだぞ!!」
ミスティ「バカー!!私が火傷でもしたらどうするつもりだ!!こんなに油の臭いがするのに水なんか掛けたら余計に燃えるだろ!!」
モーゼス「なに?そうなの!?」
ミスティ「そう!!なんか油が漏れるか撒かれるかしてる!これは消火器か何か不燃性の物じゃないと!!そんなことも知らないのか!!」
ジャミアン「ってことは、火ぃ消すには、消火器集めてこなきゃなんねーのか」
モーゼス「消火器なんてどこにある!」
ミスティ「私が知るか!!」
トレミー「あ!そこの人!!消火器どこにあるか知りませんか?」
そこの人「ひっ〜〜うわぁーーー!!」
トレミー「な、何で逃げる!!」
ジャミアン「そりゃ、こんな混乱した状態でフルアーマー見て平気でいられるなら聖闘士になれる根性だっつーの」
トレミー「あ、それもそうか」
ミスティ「じゃないー!避けろ!!」
ミスティの声がした瞬間、銃の乱射音がした。
それが普通の人の聴覚、視覚。
平然とマッハで動ける2人にしてみれば、余裕でかわせる時間があった。
トレミー「って、危ないだろ!!普通の人はオレたちみたいに避けられないんだぞ!!」
銃を乱射中の1人の銃を平然と掴む。
海賊A「な、なんだ!お前!!」
一般人としては当然の権利の質問をしつつ銃口をトレミーに向けて発射。
もう片方の手で全弾受け止められてしまうが。
海賊A「ひぃっ!ば、化け物!!」
トレミー「誰が化けものだ!!オレは地上の愛と平和を守るアテナの聖闘士だ!!」
胸を張って堂々と言い切ったが、遠巻きに見ている人の輪はさらに広がる。
ジャミアン「海賊の次は怪しい宗教家だって思われてるな」
ミスティ「絶対にな」
モーゼス「バカ言っている間に、海賊倒すか消火活動に勤しめ!!」
と、片手に消火器、片手に怯え切った船員を引っ張っているモーゼス。
モーゼス「さあ!!存分に火を消してください!!海賊からの警固は私がしますから!」
肩目がつぶれた強面の時代呉作にも鎧装着者に逆らえる船員などいるはずもなく、銃に撃たれるかもしれないという恐怖と、切れた宗教家に殺されるかもしれないという恐怖に震え泣きながら消火活動を始めるのだった。
ジャミアン「これニュースになるだろーな」
ミスティ「もみ消しても、変な噂は残ること間違いない。少なくとも、あの罪のない船員の人生最大珍事となったことだろう」
ジャミアン「モーゼスもの奴はいい奴なんだが如何せあの厳つい顔がな」
ミスティ「スキンヘッドの君も似たり寄ったりだ。ここは美の化身、姿を見るだけで相手を幸福にできる私が消火活動に必要な人員を集めてきてやろう。なあに、私にかかれば簡単だ。皆すぐに消火活動をしたくなるだろう。君はトレミーと一緒に馬鹿どもの倒しておけ」
言い残して、遠巻きに見ている客に呼びかけに行った。
消火活動の人員は確かに集まったが、それが強制によるものだったのは言うまでもないだろう。
どんなに美人でも、ナルシストの怪しい宗教家とは仲良くなりたくないいと思うのが人情だ。
とまあ、相手が政府からこの海域の護衛を頼まれた聖闘士とは知らない一般客の多大なるストレスと引き換えに何とか火の勢いが落ちた頃、船体を何かを抉るような音とともに大きな揺れが襲った。
ミスティ「なんだ!爆弾か!?」
モーゼス「下の方からだ!!」
トレミー「先の奴らが持ってたようにダイナマイトでぶっ飛ばしたのか?」
ジャミアン「にしちゃあ、ガリッ て音だったぞ!」
聖闘士4人が揺れに耐えられずに膝をついたほどの衝撃。
手すりの付近にいた客が悲鳴とともに海に落ちていく。
トレミー「あー!!」
モーゼス「海賊が落ち着いたと思ったら、今度は何なんだ!!」
ジャミアン「兄弟たちによると、爆発とかはなかっとさ。さっきの音からすると、暗礁にでも乗りあげるかかすめるかしたんじゃねーの?」
ミスティ「ええい!船長は何をやっているんだ!!敵から客が守れんなら、せめてまともに運転くらいしろ!!私、文句を言ってくるぞ!!」
モーゼス「文句はともかく、目の前の騒ぎに気を取られたが船長の所にも海賊がいってる可能性大だ!頼む!!こっちは客を助けに行くぞ!!火もここにいる人たちだけで何とかなるだろう」
ジャミアン「あ〜、さっきの警備船が追い付いてきたみたいだな。オレは取りこぼしの海賊がいないかその辺や船内確認して、あの警備船と話しつけてから行くわ」
トレミー「オレもそっちが!」
モーゼス「話しつけるのに2人もいらん!!操舵室に行ったミスティも船上に残ってるんだ!落ちた人の回収の方がよっぽど人手がいる!!」
トレミー「で、でも、こんな金属装甲で海に入ったら水死体・・・」
モーゼス「この非常時に馬鹿な冗談を言うなーー!!何のための小宇宙だ!星矢たちは聖衣付けて海底神殿まで泳げたんだから問題ない!!」
ジャミアン「いや、それは海の底に落ちて行くから重いんじゃ」
トレミー「いやー!!」
モーゼス「そんなに心配なら聖衣脱いで海に入れー!!」
ドカッと海に蹴落とし、後を追うモーゼス。
ジャミアン「夜じゃなきゃ、代わってやったんだけどな」
ソッと友人の無事を祈りつつ、残りの消火活動と海賊駆逐活動に警備船が来るまで勤しんだ。
† † †
あれほど煌々と照っていた月が水平線に消え、空が薄蒼くなったころ4人は警備船の船長から礼を言われていた。
特に、ミスティは。
操舵室に駆け込んでみれば、何故か全員酒臭く転がっていたので何もしていないが、後からジャミアンと一緒に「岩礁地帯に入ってるー!!」と悲鳴を上げながら駆け込んできた警備船の船員たちに「貴方が海賊をやっつけてこれ以上先に進むのを止めたんですね!!」と感謝感激された。
失敗だらけで怒られること必至なので、全然何もしていないけれど手柄はもらっておいたのだった。
警備船船長「では、我々は帰港しますが聖域の教皇様、アテナ様には是非是非御礼を申し上げておいてください。皆様のおかげで、あれほどの惨事の中死者を一人も出すことなくすみました。本当にありがとうございました!!」
ミスティ「フッ、当然のことをしただけだ。礼には及ばん」
鼻高々に謙遜してみせる。
トレミー「火事でかなり船が傷んじゃってるのでお気を付けて〜」
警備船船長「船体のエンジンなどには傷がなかったので大丈夫ですよ。それに、他の救助船達もおりますので」
モーゼス「我々は、もう一度だけ最初の暗礁に乗り上げた所から、見落としがないかを調べますので、失礼します」
ジャミアン「んじゃー、失礼」
4人はカラスに持ち上げてもらい、朝日の中に飛び去った。
モーゼス「と言う訳で、オレとトレミーでもう一度周囲見て行くからお前たちは先に帰ってくれ」
ミスティ「まだ見るのかい?もう海賊もいないと思うが」
モーゼス「万が一、見落としていたら大変だ。じゃあな」
ジャミアン「おい!カラスたちはいいのか?空からの方が早いだろ?」
トレミー「それはありがたいんだけど、不安定でどうも落ち着かないから適当に泳ぐよ」
ジャミアン「そっか。じゃあ、先にに戻ってるな」
トレミー「報告の方よろしくー」
ジャミアン「任せとけ!!」
モーゼスの後を追ってカラスから延びた縄手放すトレミー。
残ったジャミアンとミスティを連れて、カラスは聖域へと飛行を始めた。