アテナ「では、全員今日はゆっくりと休んでください」
復活聖闘士全員「「「「「「「「「「「「「「「はい(滝汗)」」」」」」」」」」」」」」」」
慈愛に満ちた瞳で、己が聖闘士を見渡すアテナ。
対し、見られている聖闘士たちは少々・・・いやかなりくたびれて、且つ、怯えている。
また、神々の契約により聖戦で―神の為に命を散らした戦った幸運なる者達だけだが―、再びこの地に生を受けた時には、怪我の一つなかったはずにも関わらず。
原因は、目が覚めて早々の喧嘩。
それもアホらしさに頭痛を覚えるほど、馬鹿馬鹿しい。
発端は、黄金聖闘士たち。
† † †
少し時間を遡ると、12宮下のコロッセウムに瀕し重傷の星矢たちと、死んだ聖闘士共にアテナが帰還した。
再び肉体を再生させ、冥府の王により命が吹き込まれた者たちはその生命が体中に満ちれば目を覚ますが、生存者はそうはいかない。
手間や心配の問題だけから言うと、いっそ死んで生き返らせた方が簡単且つだったのだが安全だったのだが、ハーデスとポセイドンとの契約を交わして戻った時には星矢はまだ生きていた。
一瞬、沙織の頭に、「もう死んだと思っていたのに、なんて面倒な!」という思いがよぎるくらい、彼はしぶとかった。
何故女神が愛する聖闘士に、まして恋心を抱く相手にそんな感想を抱いたかと言うと、残りの2神と交わした契約。
今、この瞬間までに神のため、神の意志が関与した死を享受した者の身に、神のたった一度の恩寵を与える
そう、アテナが星矢たち5人の元に戻った時に星矢が生きていたと言うことは、たった今目の前で死んだとしても星矢に命が与えられることはない。
もちろん、他の重傷を負っている4人も。
嫌がらせの様な、神々の恩寵と薄情さを合わせた様な契約だが決して破ることはできない。
すなわち、今ある命を繋ぐしか彼らが今後地上での生を歩むことはできないのである。
とりあえず、そのうち鼓動が動き出し、呼吸をし始めるマグロのように寝ている甦り組はおぽっといて、5人の治療に、白羊宮から駆け降りてきた青銅聖闘士や魔鈴、シャイナ、そして誰よりも待っていた星華と共に手当をすべく、近くの建物でてんやわんやに手当てをしている隙に奴らは目覚めた。
アイオロス「う〜ん。久しぶりのシャバだ!!!空気が美味い!!」
デスマスク「まるで、出所してきた犯罪者だな・・・」
アフロディーテ「お前に言われちゃお終いだろ。なあ、アイオロス」
アイオロス「ん?何がだって・・・おまえ、アフロディーテか。随分と大きくなったな。それにデスマスクも。前に見た時には、こーーーんな小さかったのに」
デスマスク「13年たってサイズの方が問題だっつーの!」
アフロディーテ「それに、昔ももう少し大きかった」
自分の膝のあたりを高さに示すのに、2人は難色を示した。
「そうかー?」と笑うアイオロスに、人波をかき分けて駆け寄って来ていた人影が、呼びかける。
アイオリア「兄さん!!」
アイオロス「んーー、お、アイオリアv」
アイオリア「本当に、本当にアイオロス兄さんなんですね」
アイオロス「ああ、ちゃんと今度は足もあるぞ!お前も大きくなったなー。流石はオレの弟、オレにソックリだ」
13年前に直接会った時には、しゃがんでやるか抱き上げてやらなければ合わなかった視線は、ほんの少し目を動かすだけで合う様になっていた。
ついでに、小さい頃に「親子みたい」と言われた容姿は、「双子のように」に変わっていた。
カミュ「親には似るが、兄弟には似るとは言わないのでは?」
アイオロス「いいじゃないか。カミュは相変わらず、細かいことに突っ込むな〜」
ミロ「ガキん時と変わってないってさ。ま、どっちに似てたって、実際ソックリなんだしいいじゃん!」
アイオロス「ミロは外見に至るまで変わっていないな〜。身長が伸びただけじゃないのか?」
カミュ「お前も、変わってないとさ」
ミロ「えー!?オレ全然変わったよ!こんなに凛々しくなってさ。なあ、アルデバラン」
アルデバラン「そ、そうだな〜・・・・ムウはどう思う?」
ムウ「変わっていないに一票ですよ。貴方達に変化なんかありませんよ。私だって13年のブランクがあったのに、一瞬昨日会って別れたばかりでしたっけ?この13年とは私の夢か妄想ですか?って疑いましたよ」
シャカ「フッ、そういう君は、変わったな」
アルデバラン「シャ、シャカ?」
不吉な相手が、否定を受けたのに肯定を口にするなど。
生き返って早々なのに、アルデバランの背には冷たいものが流れ落ちるのが感じられた。
ムウ「意外ですね、貴方が人の成長を認めるなど」
シャカ「「性格のねじれに一層の磨きが掛かったのではないのかね?」
ムウ「ほほお〜」
シャカ「標高の高いところで暮らして、脳が酸欠になったと見えるな。以前より性格が悪くなったと言ったのだよ」
ムウ「なかなか言ってくださいますねぇ。では、お礼に私も先ほどの言葉を訂正しましょう。貴方は一層偉そうになりまたよ」
シャカ「チッチッチ、偉そうなのではなくて、偉いのだよ」
ムウ「ほぅ、サガの正体も見抜けなかったお間抜けおシャカ様がね〜」
シャカ「私はサガの正体には気が付いていたに決まっているであろう」
ムウ「それはどうでしょうねー。後からは何とでも言えますよ。ええ、ええ、気付いていて清廉潔白なおシャカ様は世界制服を目論む大馬鹿野郎に従ったんでしょうとも」
シャカ「真実を見ることが怖くて、さっさと山の中にトンズラ、戦線離脱で行く先を見つめることすらしなかった愚か者にそのようなことを言われるとは思いもよらなかったな」
ムウ「んふふふ、言ってくださいますね」
シャカ「フフフフフ、そちらこそ言ってくれるな」
まず、ココで喧嘩一発目が勃発。
お得意の毒舌泥沼戦へと発展してゆく。
2つ目は、聖戦の原因のサガ。
どんなに本人が正義でありたくとも、どこまで行ってもトラブルメーカー。
サガ「アイオロス、すまない」
アイオリアに次いでアイオロスの元に駆け寄った彼は、土下座も辞さない勢いで謝る。
アイオロス「サガ・・・・」
サガ「謝ってすむ問題でないことも解っています。ですが、一言詫びさせてほしい」
アイオロス「もう・・・終わったんだよ。なあ、もう」
サガ「終わったすむ問題ではないだろ!私はっ!私はっ!!」
アイオロス「サガ・・・・」
サガ言葉すらその後に続けられないサガに、さしものお調子者のアイオロスも沈黙する。
心底、聖戦が終わり、今一度神の恩寵を得た以上サガを責める気持ちは毛頭ない。
だが、それがサガに伝えても、彼の心にまでは浸透しないと言うことが、一応親友をやっていたアイオロスには分かった。
罪悪感。
彼はそんな言葉では収められない、負の感情で満ちている。
光と希望で満ちたこの場に異質な程に。
かけるべき言葉は見つけられず、宙に浮かせた手を肩に添えることも躊躇われる。
だが、サガの肩に手は置かれた。
シオン「サガよ。そなた、本心から改心しているのだな」
その背後から突然置かれた手に、サガの元々逆立ち気味の髪の毛が、さらに逆立った。
勢いよく振り返った先には、自分よりまだ逆立った髪が目に入る。
サガ「Σシオン様!?」
シオン「その割に詫びを、教皇であり、直接手を下した者へより、親友とはなぁ」
目の辺りまで暗い影を落としつつ、サガの肩に乗せてある手にゆっくりと力がかかっていく。
サガ「そ、そのような訳では。ただ、アイオロスとは冥界でも会えずじまいで、やっと会えた時にはもう嘆きの壁破壊でしたので一言も詫びれず・・・あ、う、っ」
シオン「どういう理由であれ、私を後回しにするとはいい度胸だ!!」
サガ「う゛う゛」
アイオロス「きょ、教皇!?そんな、ちょっと挨拶が遅れたくらいで肩を握り潰さんでも!」
シオン「やかましいわ!聖衣に取り付いて、一人冥界行きを逃れたお前が言うな!!あの暇で退屈なコキュートスに13年も一人でいた私の気持ちが分かるか!!うらぁ!!」
サガ「アイオロス!!」
アイオリア「兄さん!!ちょっ!教皇!!何でそんな、冥界に行ってなかったなんて理由で兄さんが蹴られなきゃならなんですか!」
シオン「黙れ!五月蠅いぞ、アイオリア!!聖闘士が蹴られたくらいでガタガタ言うな!ええーい、サガ!!」
サガ「は、はい。え、ええっと、そのシオン様にも何とお詫びを申し上げてよいか。申し訳ありませんでした」
黄金聖闘士年長者とは言え、200年を超える人生経験には敵わず尻ごみ気味に早口で詫びを口にする。
シオン「では、私の採決に文句は言わぬな?」
サガ「如何様なご処分も、喜んでお受けいたします」
真っ直ぐな眼を、グッと下腹に力を入れ俯きそうな心を奮い立たせてまっすぐ見つめ返す。
シオン「では、歯を食いしばれ」
サガ「は?」
シオン「覚悟はいいな!おりゃー!!」
バキッ
かなり鈍い音がして、サガが壁に激突する。
そこへ、さらに突っ込んで行き、蹴り飛ばすシオン。
童虎「ほほぅ、十三年前の恨み晴らしかのう」
最初の一撃で気を失っていたと思われるサガを、瞬時にボロ雑巾に仕上げて放り出すと、
シオン「童虎ッ!お前も同罪だー!!!」
アッパーカット。
童虎「何ー!?」
シオン「私が死んだ当初は仕方がないとして、13年経っても傍観とは何事だ!!何も知らんアテナのために、弟子にもう少し情報を仕込むくらいしろ!それから、アイオロス!!10歳の子供にやられておるのではない!!」
ロス「う゛」
シオン「そこの三バカトリオ!よくもさっさと私のことを過去にしおったな!!」
三バカトリオ「「「け゛!!」」」
シオン「次に!最後まで何一つ疑っていなかった年少組みども!!それでも黄金聖闘士か!!」
年少組み「「「「「「え゛!!(驚&き不満)」」」」」」
シオン「最後に、白銀聖闘士ども!!青銅聖闘士5人に何人がかりでのされているんだ!!一から修行しなおせ!!」
と、次々に殴り倒していく。
白銀くらいならば、黙ってもいるが、黄金聖闘士は黙っていなかった。
一対一なら前聖戦の生き残りに頭を垂れただろうが、如何せ人数だけは全員生き返りを果たしただけに多い。
赤信号、皆で渡れば怖くない、で反撃を開始した。
次第に日頃の鬱憤も手伝って、その場全てを巻き込んだ盛大な喧嘩が始まった。
うっぷん晴らし、責任の擦り付け合いからただの殴り合いへと。
だが、そんな中にも要領のいいのはいる。
その輪から、そ〜っと抜け出してきたカミュは観客席で、観客に決め込んでいるカノンを発見した。
どうやら最初からコロシアムの観客席にいたのだろう。
特に怪我をした様子もなく、楽しそうに悠然と下を眺めている。
上がって来るカミュに、ニヤリと笑った。
カミュ「貴方は参加しないのか?」
カノン「オレが?呼ばれていないから関係ないだろ。お前こそ、いいのか?」
カミュ「やっと抜け出してきたんだ。戻るつもりはない」
カノン「なら、その辺に座って見物でもしたらどうだ?見ているだけなら面白いぞ」
カミュ「止めようとは思わないんだな?」
カノン「アレをか?まさか。ジジイ2人だけでも、ゴメンだ」
カミュ「ジジイ?・・・・・まさか、教皇と老師か?」
カノン「他に誰がいる?二世紀半も生きれば十分ジジイだ。化石がよければ、化石でも構わないが」
カミュ「年功者には礼儀を払うものだぞ」
カノン「・・・オレの存在を隠したシオンのジジイと、止めなかった童虎に、払う敬意なんてものはない。まあ、適当におだてていれば良いように動いてくれるなら、おだてるがな」
そう言って、悪戯っぽく笑うカノン。
カミュ「貴方は彼らを恨・・・」
ミロ「あーー!!!!あんなところに逃げてるのがいる!!!」
横槍が入る。
デス「なに!!」
シオン「あん小僧どもが!!」
アイオロス「ずるいぞ!!」
カノン「ヤバ。気付かれたか。逃げるぞ!」
カミュ「え?あ、ああ」
慌てて、コロッセウムの上に向かう。
ムウ「逃がしません!!シャカッ」
シャカ「任せたまえ」
2人がかりで、テレキネシスで動きを封じる。
共通の標的に、息もピッタリ合っている。
カノン「げ」
カミュ「う」
動きを封じられ、あっさり捕まる2人。
アフロディーテ「2人だけ逃げようなんて許さないぞ!」
アルデバラン「まあ、ココは1つ洗礼と思って、混じっておけ」
アイオリア「そうだ、そうだ!」
最早当初の、喧嘩理由などどこかへ行ってしまっている。
それでも、全員が楽しげに笑っている。
過去に遺恨があったのは事実。
だけど、それは既に終わったこと。
これ以上、それを引きずることも、蟠りとすることも必要ない。
と、とまあ、喧嘩をしている当人達はソレでいい。
だが、やっとのことで生き返らせたアテナにしてみれば、どうであろうか?
怪我をした聖闘士を手当てしている間に、生き返った聖闘士は喧嘩中。
礼や仲間の心配なんてものは頭にないのだろうか?
アテナ「んふふふ、どうしてくれましょうか」
戻ってきたアテナの後方では、生き残り聖闘士と雑兵が怯えている。
強大で不信な小宇宙に、気づいた聡いのは憐、トレミー。
強くない分、生き残るための勘だけは良かったようだ。
トレミー「ひっ」
バベル「どうしたん・・・・・」
アステリオン「ん・・・・(凍)」
そこから氷の波紋が広がった。
ゆっくりと、だが確実に気づいた者が皆凍ってゆく。
だが、世の中鈍くて最後まで気づかない者もいるのが常。
シオン「ソレでもお前!私親友か!」
童虎「そうはいうがワシにはワシの生活があったんじゃ!」
シオン「私より大切か!」
童虎「当たり前じゃ!死んだ奴より生きているものを優先させるのは当然じゃ!」
シオン「なんだとー!!」
人類の歴史を普通の3倍は軽く生きた化石は、しつこく喧嘩を続ける。
アテナ「貴方たちいい加減にしなさい!!!」
シオン&童虎「「うるさい!!」」
シオン&童虎「「ん?」」
アテナ「う、うるさいですって!!!」
人類歳高齢の2人の頭に、ニケが飛ぶ。
アテナ「煩いのは貴方たちよーーーー!!!!」
シオン&童虎「「うわ!!」」
見事にクリーンヒット。
アテナ「まったく、私の苦労を何一つ解っていないんだから!」
ブツブツ言いながら、ニケで2人をつつく。
アテナ「さ、皆楽にしてよくてよ」
残った者には、慈愛に満ちた笑顔を向けられた。
先ほど見せた強大な小宇宙の、腹黒さも見えないが知った以上恐怖は消えない。
アテナの言葉を聞く間中脅え、最後の
アテナ「では、全員今日はゆっくりと休んでください」
を聞いた時にはハッキリと「これ以上騒ぎ起こしたら、長老二人の二の舞」と聞こえたと後に皆が語った。
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