アテナの雷撃を受け、皆それぞれにアテナの恐ろしさを身にしみた上で、生き返った聖闘士たちはそれぞれの居住地に帰ってゆく。
が、最高峰たる黄金聖闘士は白羊宮入口でたむろしていた。
その理由は、冥界編12宮突破。
白羊宮は入り口破壊。
双児宮は、天井に大穴。
巨蟹宮は、宮そのものが半壊。
処女宮に至っては、瓦礫。
教皇の間も双児宮と同じく、天井に大穴。
デス「で、破壊してくれた張本人たち。どうしてくれんだ!!オレん所、居住空間まで破壊されてるじゃねーか!!」
サガ「いや、その、巨蟹宮は我々はないぞ・・・ほとんどは」
シャカ「蟹は何を図々しく言っている。君の宮は半壊で済んでいるではないか。雨風凌ぐだけの屋根と壁があるではないか。私の宮など建物はおろか、外の沙羅双樹の園に至るまで崩壊しているのだぞ!なあ、サガにシュラにカミュ?」
デス「オレはお前じゃねーんだ!壁と屋根だけじゃ住めねーっつうの!!しかもいつ崩れてくるか分からねーなんて、何の罰ゲームだ!」
そう言っている目の前で、巨蟹宮の屋根が一部が崩れているのが遠目にもハッキリ見取れる。
白羊宮から落ちるのが見えるということは、「頭に当たったら即死じゃんvv」というサイズはあるだろう。
シャカ「うむ、弱いことのへ罰ゲームだな」
デスマスク「テメー!!」
いがみ合う2人から、破壊当事者たち―ムウ・アイオリア・ミロ・サガ・シュラ・カミュ―は無言で視線を逸らした。
ここで非を認めたら、間違いなく賠償請求をされるだろう。
事情は事情。
「壊した事実は変わらないのだから、立て直せ」と。
童虎「まあ落ち着かんか。誰が壊した、責任だと擦り付けおうたところで、先無きことじゃろう」
シオン「まったくだ。小僧ども!聖戦中の破壊行動にいちいち責任を問うたらやっとれんわ!私など、家どころか殺されたんだぞ。言い出したらきりがないゆえ、黙っているが」
サガ「うぐ!っ」
アイオロス「や、教皇さっきも今もこれ以上にないくらいサガにハッキリ言ったし。うぎゃ!!」
シオン「細かいことにこだわるなと言っておる際中にこだわるか!!」
デスマスク「だからって、あの宮でどうやって生活しろって言うんです!寝てりゃ瓦礫が落ちてくるなんて、家としての機能果たさないっすよ!死活問題は細かくねー!!」
シオン「やかましい奴だな」
童虎「仕方がないのう。デスマスクとシャカは誰かのところに泊まれ。それから、あの様子は双児宮も居住空間が使えるのか調べてみんとな」
サガ「それは大丈夫だと思います。私が壊したのは、通路の天井ですから」
童虎「ふむ、では問題ないのう。そうすると、そこの2人がどこに行くかじゃな」
デスマスク「しゃーねーな。シュラ、泊めろ」
シュラ「泊めてもらおうと言う割に、随分な態度だな」
デスマスク「へっ、オレとアフロディーテのおかげで、お前ら順調に進んでオレの宮破壊したんだろ。当然の責任だ」
シュラ「さっきサガが言ったように、巨蟹宮はオレたちじゃない!シャカだ!!」
デスマスク「あいつの家はオレん所より壊れて、他に行くってのに泊まれるか!大体、あいつと一つ屋根の下なんて誰が生活したいかよ!絶対朝から説法、昼は瞑想、夜も説法。しかも、食事は薄粥!どこに人生の楽しみがある!!?」
シャカ「ほほほ〜う、そこまで言うのならば私も一緒にシュラの宮に行ってやろうではないか。そこでお望み通り死んでも治らなかったその性根、叩き直してくれよう!」
シュラ「生き返って早々、聖域迷惑代名詞常トップ5をこの13年連続キープし続けたお前たちを引き取らねばならんのだ!!!デスマスクが泊まるのなら、シャカは他の宮に行け!!無理に来てみろ。エクスカリバーだからな!」
ちなみに残りの3人は、ムウ・カミュ・アフロディーテ。
ムウは殆ど聖域にいなかったが、度々聖衣の墓場のゴミ(=人骨)等はた迷惑な贈り物を送りつけて聖域を震撼させていた。
シャカ「うむむ」
アルデバラン「ま、まあ、シュラも落ち着いて。シャカ、オレの宮にくるか?冥王戦では特に被害もないから、寝るところだけは保証するぞ」
シャカ「む?君の宮か・・・・・・・。食事は精進料理にしてくれるのなら行ってやろう」
アルデバラン「ぜ、善処する」
ムウ「善処するじゃなくて、食べたければ自分でやらせればいいでしょうが。まったく、泊めてもらう割りに、偉そうですね〜」
シャカ「私だから良いのだ!」
ムウ「はい、はい、デスマスクだけじゃなく、貴方も死んでも性格は治ってませんね。さて、シオン様は白羊宮に来られますか?」
シオン「そうだな。今日のところは、ひとまず白羊宮に行くか」
ムウ「そうですか。そうだ!私の弟子を紹介しますね。貴鬼っていうっっわぁ!」
シオン「弟子だと!それは本当か!?早く紹介せい!」
ムウを引き摺って、白羊宮を目指すシオン。
それを皮切りに、皆自分の宮へと散っていく。
シュラは、ひとしきりデスマスクに磨羯宮で過ごすに当たっての注意事項(タバコ・酒・女)を体に叩き込んでから出発した。
行く道ではすでに戻っている、孫弟子バカと、無茶を言う居候に困る同僚がいた。
と、そこで上から降りてくる2人組が
シュラ「ん?サガとカノン」
デスマスク「登ったばかっかで、何で降りてきてんだ?」
双子も気づいたらしく、片方が手を振る。
サガ「2人とも今上るところ?っと、デスマスクどうしたんです?その傷?」
デスマスク「あ、いや、ちょっとシュラの奴が・・・」
シュラ「オレの宮で生活するに当たっての注意事項を体に叩き込んだだけです。ところで、2人はどうしたのです?さっき上がったばかりでしょう?」
カノン「食糧が全くなかった」
サガ「私も13年間留守にしていたし。ある程度の掃除はされていたんだけれど、・・・食料はね」
シュラ「ああ、主不在で置いておいても腐るだけですよね。Σって、あ」
デスマスク「どうした?」
シュラ「多分、オレの宮も食える食料ないぞ。死んでからしばらく経ったし」
デスマスク「つーことはオレらも買出し組み?」
シュラ「そうなる」
サガ「では、みんなで買い物に行こうか」
聖域内の市場へ、4人で繰り出す。
カノン「・・・・・・・・あまり、変わっていないな」
周囲の注目を思いっきり集めながら、市の中を歩いて行く。
何せ生き返ったばかりの奇跡の黄金聖闘士が4人、内2人はいまだに黄金聖衣を纏ったままなので、どうやっても人目を引く。
シュラ「え?あなたも来たことがあるのか?」
カノン「オレがサガと一緒に15年前に聖域に来て、13年前に・・・・・聖域を離れるまでのあいだオレも聖域で過ごしていたからな。顔隠したり、サガの振りをしたりして聖域内はそれなりに知っている」
サガ「何度も私の振りをして、貴方たちにも会ったことありますよ」
デスマスク「げ!ってことはオレらのこと知ってたんだな、アンタは」
カノン「ガラの悪いガキだとは思っていたぜ」
デスマスク「アンタはガラの悪いニーチャンだったんじゃねーの?」
カノン「否定はしないでおこう」
ニッと笑ってみせる。
デスマスク「へー、何かサガと同じ顔していても、全然違うんだな」
カノン「アイツはこんな表情しないだろうからな」
悪そうな笑みを浮かべて前を歩く2人。
サガ「シュラ?」
シュラ「・・・・・・・・あ、なんですか?」
サガ「何ですかって、貴方こそ立ち止まって?気分が悪いなら、私たちで買い物くらいしておきますから先に宮に帰ります?」
シュラ「あ、いや、そうじゃないです!ただ、貴方とは長い付き合いだったのに、全然気づいていなかったなっと思って。貴方とカノン。どこで入れ替わったのかちょっと思い当たるものがなかったから」
サガ「わざと似せているのに、違いが分かったら苦労が水の泡です。シオン様でも小宇宙の差を除けば、外見で私かカノンかを判別することはできませんでしたよ。まだ、小宇宙を完全に取得していなかった貴方達では見分けるのは無理だったでしょうね」
シュラ「そう、なんですか?」
サガ「ええ」
カノン「なにを話しているんだ?さっさと行くぞ」
遅れている2人を、振り返るカノンとデスマスク。
サガとよく似た、でも確かに違うもう一人の人がそこにいる。
シュラ「なあ、カノン」
カノン「んぁ?」
シュラ「貴方がオレたちの記憶の中でハッキリ、コレはオレだって言えるのあるのか?」
カノン「・・・・・・は?」
サガ「13年前、私と入れ換わって他の黄金聖闘士と会った時のことですよ」
カノン「古い話を。どうした、急に?」
シュラ「え、あ、だって、今の貴方はオレたちの仲間で、聖域内で認められているんだったら、自分の存在を主張していいんじゃないのか?既にオレ達のことを貴方は知っているんだし。それに、オレは貴方のことを知りたいし」
カノン「別に、オレにとってはどうでもいいが、気になるというのなら後で調べてやろう。オレとサガが入れ替わる時は、お互いがお互いのやったことを知っておかなきゃいけないんで、かなり細かい日記があるはずだ」
デスマスク「そんなことしていたのか?」
カノン「していたんだよ。結構な努力だろ」
サガ「自分のやっていないことまで、やった振りをしていましたからね」
デスマスク「へー」
† † †
買出しが終わって、双児宮では宮の主は日記探しに。
お客のはずの2人が、料理をすることになった。
ちなみに、この時になってデスマスクとシュラはやっと黄金聖衣を脱いだ。
カノン「アレは見つかるとまずいものの部類だからこの辺のはずだが・・・ケホッ・・これは、一度大掃除だな」
サガ「いくら掃除してくれていたとはいえ、なにせ13年分の埃ですからね、ケホッ、ケホッ」
カノン「目が痛てー」
サガ「おかしいな、共有のものはここら辺にまとめたと思うんだけど」
探し出して僅か一分。
カノンは日記の捜索を止めて、掃除に移った。
意外と綺麗好きらしい。
カノン「堅いな、この窓」
ガチャガチャ ガコッ
カノン「チッ!外れやがった。通路の穴ともども、居住空間も修繕が必要だな。たくっ」
枠ごと外れた窓を一先ず壁に立てかけて、換気をする。
兄の方は、埃にめげずハンカチ簡易マスクで果敢に捜索を続行。
生き返ったばかりの大罪人兼黄金聖闘士のこの姿を見たら、白銀以下皆泣くことだろう。
そんな危惧を余所に、部屋の隅の方にある本棚の本を片っ端から出していく。
本を出す度に、埃が舞い上がる。
本棚の空きスペースに、出した本を横にして積んでいく。
サガ「ケホッ!!・・・これはアルバム?」
被っていた埃を払いのけ、口元を覆っていたハンカチでで綺麗に拭いてやる。
他の本の後ろになっていため、埃をかぶっただけで色褪せることなく真新しい装丁だ。
サガ「懐かしいな」
シオンを殺したあと、一度も帰ることの出来なかった自宮。
残されていたのは、光しか知らなかった頃の記憶。
真っ直ぐな道が未来に続いていると信じていた。
懐かしい記憶の破片を写真を見ながら、手探りに記憶をたどって行く。
† † †
デスマスク「夕食できたけど、日記は見つかったか?」
カノン「さあ、サガが探してるだろ?」
デスマスク「アンタは?」
カノン「見ての通りの掃除だ」
髪を後ろで束ねて、雑巾を片手に持って腰にはハタキを挿している。
デスマスク「ブッ!笑える格好だな」
カノン「悪かったな!お前のエプロン姿も似たり寄ったりだ。探す気にもならねーんほど、埃がたまっているんだよ。おい、サガ!!見つかったか?」
反応無し。
カノン「?」
デスマスク「まさか、前非を悔いて、また自殺とかしてねーよな?」
カノン「それはない。血の臭いがしない」
デスマスク「首吊りってのもありだぞ?」
カノン「それもない。変な物音は一切していない。どちらかと言うと静か過ぎる」
デスマスク「静かに自殺と言うと、薬か?」
カノン「食料もない宮に、薬があるとは思えんが」
デスマスク「あったとしても、本来の効力があるかが不明か。へたすりゃ、苦しいだけで」
顔を見合わせる2人。
本棚の影を探していくと、奥の方に懐かしげにアルバムを見るサガの姿があった。
カノン「ほら、見ろ。生きていた」
デスマスク「他に言うことはないのか?」
カノン「別に。おい、サガ!」
サガ「え?」
やっと、驚いてアルバムから顔を上げる。
カノン「見つかったか、日記」
サガ「Σあ」
カノン「見つかってないとさ」
サガ「ちょっと待ってください!」
カノン「オレは一度シャワー浴びてから、メシに行くけど、サガはどうする?」
サガ「見つけ次第、行く」
デスマスク「あんま遅くなりそうなら、後でいいからな。飯が冷える」
急いで、アルバムのあった場所とその横のいくつかの本をのける。
その後ろを見ると、なにやら鍵の付いた箱が置いてある。
厚く埃を被って。
サガ「っと」
最上段の一番奥に入り込んでいる箱を、手をのばして引っ張り出す。
拙い双子座の紋章が彫り込まれた木箱。
サガが欲しいと言ったのを、カノンが作ってくれた物。
サガ「・・・・・・前はあんなに上手に作ったと思ったのに、こうして見ると意外と歪んでいるな」
埃にまみれた幼い日に自分たちで造った宝物入れを、ゆっくり撫ぜる。
厚く
厚く積もった埃を払いのけるために。
愛しむために。
サガ「また、記憶を重ねる時が来るとは思わなかった」
13年前。
カノンがスニオン岬から姿を消した日にこれもまた、封印した。
もう、見る必要がないから。
もう、書く意味がないから。
もう、独りだから。
「大切なものを入れよう!」と言った自分に作ってくれた相手はもういない。
大切な宝箱に、入れるものはもう増えることはないと思ったから。
日記を丁寧に拭いて、ダイニングへと向かう。
手の中の日記には、自分達の15年前から13年前の、黄金聖闘士とのかかわりが書いてある、確かな記録。
カノンがいると言える日が来るなら、「きっと教えてあげよう」そう思って書いた日記。
双子座は1人だけ、そう納得しても、消せずに心の片隅にあった願い。
その日の食事は、とても楽しいものだった。
嘘の中にしかいられなかった、大切な家族が・・・彼が彼として、友人達の中で認められていったのだから。
話は真夜中まで尽きることは無かった。
† † †
朝日が昇りきった後、カノンが欠伸をしつつ、自室から出てくる。
カノン「あふ、ハヨ」
サガ「ああ、おはよう」
先に起きていたサガが、キッチンから料理を運んできていた。
カノン「あの2人は?」
サガ「さっき、デスマスクはシャワーに行って、シュラはキッチンでお茶を入れてくれているよ」
カノン「あ、そ。・・・・・・・なあ、今うちにいる人数って4人だよな?」
サガ「どうだけど、どうかした」
カノン「何で、5つ6つ目の皿持っているんだ?」
既にセッティングされたテーブルには、4皿置いてある。
サガの手の上には2皿。
サガ「あれ?」
カノン「なに作りすぎているんだ?」
サガ「おかしいなー。6皿と思ったんだけれど」
カノンの顔見ながら、小首をかしげる。
カノン「そんなもん、オレに聞くな。28でボケは勘弁してくれ」
サガ「違います。大体、若年性の痴ほう症―アルツハイマーはれっきとした病気ですよ」
カノン「聖闘士が病気持ちでいいのか。それも黄金が若ボケ!?」
サガ「脳の細胞の突然変異は、いくら聖闘士でもどうしようもないですよ。どこで何が起きているのか分からないものまで奇跡は起こせません」
カノン「起こせません、で済ませるな」
サガ「じゃあ、私がボケたら面倒よろしくv」
カノン「同い年の弟に介護を頼むな!」
サガ「酷い。たった一人の兄に対して。それも二度目の生で、やっと分かり合えるかも?と希望を持っている所に、なんて酷い弟でしょう」
さめざめ、の風情で2皿をキッチンに戻しに行く。
サガ「でも、確かにもう2ついるって思ったのに。あ、シュラ、すまないけど4つでよかった」
とキッチンからシュラも、2つ多くマグカップを持って出てくる。
シュラ「え、ああ。ヤッパリ多かんたんですね。サガとカノンが2皿ずつ食べるか言うのではなく。一応、こっちも皿の数にあわせたんですが」
サガ「すまない」
シュラ「それじゃあ、全員に分配しますか?」
カノン「いや、オレは朝はあまり要らない」
サガ「私も、同じだから、シュラとデスマスクで食べてくれていいよ」
シュラ「・・・・・・食べきれたら、いただきます」
デスマスク「あーサッパリした」
カノン「出来た所に出てきたな。揃ったし、食べるか」
と言うわけで、全員が席について、短い祈りを・・・・。
ミロ「サガ!!メシ!!!!」
台無しにされた。
カミュ「おはようございます。ミロ!もう少し、静かにしないか!はー、13年たっても全く成長がない!!」
ミロ「ナンだよ!カミュも付いてきたんだから一緒だろ!」
何の遠慮もなく、むしろ当然!とソファーに陣取るミロ。
咎めながらも、自分も一緒に腰を掛けるカミュ。
シュラ&デスマスク『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば』
カノン「・・・・・・・・・・・そう言えば、コイツら飯によく来ていたな。慌てて、隠れた覚えがある」
サガ「ああ、だからもう2ついると思ったんだ」
納得顔で手を打つ。
まるで違う生活をしていたからか、習慣は13年たっても抜けていなかったらしい。
サガ「さっきの2つ取ってきますね」
デスマスク「13年前はともかく、お前、まだ自分で飯作れねーのか?」
ミロ「作れるけどマッズイ!!サガの飯の方が美味いし、折角生き返って昔みたいになったんだから、最初の日くらいいいだろ!!」
カノン「゛最初゛と言いながら、何時までも食いに来ていそうだな」
カミュ「その可能性大ですね。私がシベリアから報告等で聖域に戻る度に『久しぶりだから』と、常に食べに来ていました。『そのうちオレの料理御馳走してやる!』と言う言葉はいまだに実現していない。ところで、2人は、昨日ココに泊まったのか?」
シュラ「ああ、成り行きで」
デスマスク「昔話に花が咲いて、そのまま、な」
サガ「はい、2人の分」
7人に増えて、朝食をしていると、早くも上に行く下の住人上がってきた。
アルデバランと居候のシャカである。
アルデバラン「おはようございます」
サガ「ああ、おはよう」
シュラ「おはよう」
シャカ「うむ」
デスマスク「お前らもう、上に行くのかよ?」
アルデバラン「もうと言っても8時半ですし。シャカが、少し処女宮を見て行きたいと言うので」
シャカ「昨日は、色々あって見に行けなったから、気になってな」
ミロ「1人で見に行けばいいん・・モグッ」
カミュ「要らん事を言うな」
無理やり後ろから口覆い、耳元でささやく。
ミロ「う〜!!」
カミュ「なんだ?変なことなら言うなよ。通路はおろか居住空間の壊れた宮が増える事態は、教皇よりもアテナの反応が恐ろしいから」
昨日のアテナの笑みは、ばっちりカミュの脳裏に焼き付いている。
ミロも同様だったらしく、もがくのを止めて首を縦に振った。
ミロ「ぷはっ」
アルデバラン「大丈夫か?」
ミロ「ああ、何とか。ちょっと口の周りが凍ったけど」
シュラ「唇が割れているぞ」
ミロ「え・・・・・・あ、ホントだ。鉄クサ〜」
カミュ「ドカンと一発天魔降伏を喰らうよりは、可愛いものだ」
シャカ「何かね、ミロ。私の技を煩悩を排するために喰らいたいというのなら、生き返って早々本調子ではないが親愛なる同朋のため、今この場でやってやるが」
ミロ「全然オレのためじゃねよ!!オレのスカーレット・ニードルと違って、お前の全部大技・破壊系だろ!!」
シャカ「俗な衣を脱ぎ捨てるには手早い手法であろう」
ミロ「服だけですまねー!!」
カミュ「いや、たぶんシャカの言う『俗な衣』は体のことだ」
ミロ「・・・・・・体?」
デスマスク「分かり易く言やー、死ね」
ミロ「殺す気満々かよ!!」
シャカ「いや、煩悩を断ち切ってやるだけだ。単に君の場合、根本から断たないと無理ど言うだけで」
ミロ「それを言うなら、デスマスクだろ!!オレはそこまで酷い生活態度してねーもん!!」
デスマスク「オレを巻き込むなー!!」
シャカ「仕方がない、蟹も希望するというのなら、2人でそこに並びたまえ」
デスマスク「してねー!!」
カノン「シャカ、それはちょっと待て」
ミロ「カノンvv」
デスマスク「流石神の様な男の弟!」
カノン「やるなら外でやれ!!『そこ』で間に合わせるな!」
デスマスク「パチモンじゃダメかよ!!サガ!!ゆーちょうに茶入れてる場合じゃねーだろ!!」
サガ「何です?」
デスマスク「ほれ、言うことあるだろ!!」
サガ「・・・Σあ」
デスマスク「そうそう!」
サガ「お茶のお替わり入れておきますねv」
デスマスク「ちっがぁーう!!!!なんだその的を得た、って顔!!」
カノン「そいつの天然に怒ってると疲れるだけだぞ〜」
シオン「朝からこの宮は騒がしいな」
シュラ「教皇!?おはようございます」
サガ「おはようございます」
ムウ「1、2・・・・・・7と、半数が来てますね」
ミロ「よ!ムウ」
シオン「ガキのように騒いでいる暇があるなら、支度をせい!昨日、9時には教皇宮に来ておれと言い渡したであろう」
ゆっくり上がる、両手に全員光速の動きで答えた。
瞬きが終わった時には、食事・身支度を終えている。
天秤宮では、まだ寝こけていた童虎をシオンが踏ん付け、人馬宮ではロス&リア兄弟が合流した。
最後の宮では、完璧な身仕舞で13人をイライラした顔の主が迎えた。
アフロ「遅い!私だってみんなと話したかったのに!!」
入口前で、ずっと待っていたようだ。
アフロ「特に、サガにカノン、デスマスクとシュラは酷いじゃないか!昔話に花を咲かせるなら私たちも呼んでくれてよさそうなものを!」
デス「ワリイ、ワリイ。なんか成り行きで一緒になってさ」
シュラ「今日は一緒に飲むから許せ」
アフロ「本当だろうな?」
サガ「約束だ」
宥めすかして、やっと秀麗な顔から怒りが消えた。
† † †
全員が、教皇の間に揃う。
黄金聖闘士全員『おはようございます。アテナ』
アテナ「おはよう」
ニッコリと、玉座に座り、左手にシオン、右手に童虎が控えた形で12人の黄金聖闘士と向かいあう。
アテナ「皆さん。さて、今朝みんなに集まってもらったのは、聖戦でくたびれてしまった聖域を立て直す算段をするためです。色々ありましたからね」
双子座兄弟を筆頭に、聖域がくたびれる原因に一役になった連中が視線を一斉にそらした。
その仕草に、「我に意あり」と笑みを深くするアテナ。
アテナ「まず、通常業務が行えるようになるまで直さなくてはいけません。それに、未だに福祉や医療が古代のままなんて、人権無視もいいところなので、出来るところは現代の水準まで引き上げてもらいます」
口を挟むことはなかったが、皆頬がひきつった。
なんせ、1000年やそこいらでない昔のままな聖域を、一気に現代社会に通用するように等、いかに大変かは常識無し&古代人な黄金聖闘士たちでも理解できる。
アテナ「その采配を黄金聖闘士にはお願しますわね」
一同、今度は盛大に顔を引きつらせた。
特に、肉体派。
アテナ「やらなければならないことは山積みですが、私もずっと聖域に入られませんから―グラード財団の方も色々ありましたし、長らく不在にしましたから。ですから、まずは、教皇を誰にするかを決めたいわ。シオン、意見は?」
「う〜む、現代社会がどうなっているかを調べるところから始めねばならんのか」と考えていた聖域内の生きた化石シオンは、反応が遅れた。
童虎「アテナ、アテナ」
アテナ「なに、童虎?」
童虎「別段選出はいりますまい。シオン以外の全員の中で教皇は決まっておりますゆえ」
アテナ「え?」
シオン「なに!?何故私だけ除者なのだ!!」
童虎「除者ではなく、単にオヌシが気づいておらんだけじゃ。それだ若返ったんじゃ、もう一回くらい教皇をやっても問題なかろう」
シオン「なんだと!?」
童虎「もう一回教皇をやれ。大体、誰を押すつもりなんじゃ?以前の候補のアイオロスとサガをまた競わせるのか?確かに大らかなアイオロスは性格は教皇向きじゃが、実務はからっきし。大改革をやろうと言う時に教皇がそれでよいのか!?対するサガは、実務はオヌシと入れ換わっても問題がないほど完璧じゃが、前科を考えるなら、要らぬ争いの種をまく必要がどこにある?」
シオン「そ、それは」
童虎「元々教皇交代は、オヌシが年食って聖戦時に先頭切って前に立つのが難しくなったからであろう。目下の敵が和平で結ばれ、交代の最大原因が片付いた今、いったい何のために新しい教皇を選出する?」
シオン「さりげなく、自分のことは棚上げしおったな!!ではなくっ、新しい世代を育てねばならんからだ!!」
童虎「育てるも何も、すでにダメなくらい育った後ではないか!!冷静に考えて、11人の中から選ぶ気じゃ!!」
ビシッ!!と指した先には、ダラケきった態度で人ごとに話を聞いている黄金聖闘士12人。
宮順に並んでいたはずが、仲の良いもの同士いつの間にか固まっているし、酷い者など床に座り込んでいる。
シオン「立つくらいしておかんか、小僧どもー!!ええい!!サガ一体全体コイツらにどういう教育をした!!」
全員をいっきに投げ飛ばし、落ちてきたサガの胸倉を掴む。
サガ「〜〜〜〜〜〜〜」
シオン「ピヨッとらんで、答えろ!!」
サガ「・・・あ。・・・・え、いえ、その」
シオン「キビキビ答えろ!頭潰すぞ!」
サガ「何もしていません」
シオン「はぁ?」
デスマスク「下手に知恵つかられたら厄介だったからな」
アフロディーテ「既に、厄介な性格に知恵が付いたらサガっていうか、黒サガ?の野望は完全に潰えるものね〜」
シュラ「気づかなくていいことに気づいたら、内部抗争始まる可能性もありましたし」
シオン「〜〜〜〜〜それでいいと思っとるのかーー!!」
サガと年中組みだけもう一度天井にぶつかる勢いで投げ飛ばされる。
アイオロス「うわ〜、痛そう」
カノン「自業自得だ。で、お前教皇になるのか?」
アイオロス「オレに務まると思う?」
カノン「名ばかりで他の奴が実務をやる破目に一票だな」
アイオロス「即答!?まあ、その通りだけど。シオン様もそのつもりだったとは思うんだけどさ」
カノン「?」
アイオロス「教皇ってやっぱり、内政だけじゃなくて外交もやらなきゃいけないじゃん。シオン様位になれば両立もできるだろうけど、あの時オレが14歳で、サガ15歳だぜ。だから、内政の得意なサガが長く聖域にいられて、外交の得意なオレが外に出るように采配したらしいよ〜」
カノン「それを、サガの奴は」
アイオロス「知らなかっただろうね。オレが聞いたのも、世間話のついでみたいだったし」
カノン「・・・・・・事実も知らずに突っ走ったのか、あの馬鹿。いや、原因の一端はオレが作ったんだが」
アイオロス「でも、サガにしたらカノンが表に出られる最大のチャンスを逃したと思ったんだろうな。サガが教皇に引けば、双子座の資格を持つカノンが聖衣を持つのが妥当だろ」
カノン「薄気味悪いことを言うな。そんな甘ったるい考え」
アイオロス「なんで?」
カノン「何故って」
アイオロス「アイオリアがその立場なら、って考えたら、サガが止まれなかったのも分かる気がする。兄弟が蔑にされるのって、辛いよ〜。されてる当人はもっと辛いだろうけど」
カノン「別に、オレは」
あまり真っ直ぐ見てくる目に、居心地の悪いものを感じて目を逸らす。
アイオロス「だから、カノンとこうやって面と向き合えてうれしいよ」
カノン「・・・・・・・呆れてものも言えんくらい、お人よしだな。自分を殺した相手とその弟に」
アイオロス「大丈夫、大丈夫、一方的な借りじゃないから」
カノン「は?」
アイオロス「オレのほうも借りがあるから気にしなくていいよ。大体、せっかく生き返ったのに『貸しや借り』なんて面白くないじゃん!!罪も贖罪も全部冥府のレテー川に流したて生きなおしたらいいだろ?人生楽しんだ者勝ちってね」
カノン「能天気」
アイオロス「それがオレの取り柄だし」
アテナ「少しサガに分けてあげて欲しいわね。シオンにも」
アイオロス「2人ともタイプは違いますが、根に持ちますからね」
カラっと笑う。
童虎「もう少し大らかであれば、良い教皇なんじゃがなぁ。で、皆はあれが教皇でよいか?」
黄金『はいvv』
殴られているサガと巻き込まれている年中組みを除いた全員が喜んで答える。
あの聖戦後の、神話の時代からの遺物制度を現代水準に引き上げるためのデスクワーク担当など、誰もやりたくはないというのが本音。
これ幸いと、シオンに押し付けるい満々である。
童虎「と言うわけで、教皇はシオンに決定。のう、シオン教皇」
年少組『よろしくお願いしまーす、シオン教皇様』
シオン「なにー!!???どういうことだ、童虎!!お前ら、何を勝手に決めておる!」
大分ボロっちくなったサガをほっぽり出して、今度は童虎にかみつく。
昨日盛大にアテナに怒られたことなど、記憶に欠片も残っていない模様。
アテナ「元気ねー」
アイオロス「200年以上自力で生きた生命力ですからね!」
アテナ「今生でもそれくらい生きる気かしら?」
カノン「やもしれませぬな」
アテナ「元気に皆それくらい生きられるといいわね」
黄金聖闘士『自力で200年も生きる化けものにはなりたくありません!!(たくねー!!)』
全員一致の回答。
アテナ「まあ」
軽やかな笑い声が教皇宮に響き渡った。
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