沙織「ねえ、サガ」
聖戦顔終わり、事後処理の目処が付いたそんな余暇、沙織はずっと不思議に思っていたことを尋ねた。
沙織「何で、聖域の共通語が日本語なの?シオンの頃から、日本語なんて事はないでしょう?アナタが教皇やっている時に、日本語を共通語にしたのよね?」
サガ「・・・・・・・・・・・・・・・そ、それは」
沙織「何か言いにくいことでもあるの?」
デスマスク「言いにくいっつーか、黒サガがやっことだからなー」
その日、処理班に当たっていたのはシオン、童虎、双子兄弟、アイオロス、デスマスク、ミロ、アフロディーテ。 カノン以外は、一様に苦虫を噛み潰した顔をした。
沙織「黒が!?」
サガ「そうらしいです。私はその頃の記憶は、ほとんどないのですが・・・・・気がついたら、日本語が出来るようになっていて」
カノン「なんだって、あの黒がそんなことを?」
デスマスク「黒サガってさ、なんか変に努力の人だったんだよ。人をバカにするためならどんな努力をも惜しまないってかんじでな」
沙織「屈折してるわねー」
アフロディーテ「まったくです。ともかく、日本から来る貴方をバカにするにしても、言葉が通じなくてはバカにできないから、自分も日本語を覚えたんですよ」
沙織「それはそれで、すごい努力だわ」
呆れた顔をする沙織に、年中組3人は激しく同意した。
ミロ「アレは地獄だった!!いや!コキュートスの方が寒いだけでよっぽどましだーー!!」
いきなりミロが席を立って、叫びだす。
沙織「ど、どうしたのミロ?」
カノン「書類整理で頭がパンクしたか?」
童虎「いやいや、そうではなくてあの時のことを思い出したのじゃろう。実は、黒サガは自分だけが頑張るのがイヤで、聖域の支配領域全てに『一週間以内に日本語を全員マスター!できなければ処刑!!!』といった命令を出したんですじゃ」
カノン「例外なくか?」
デスマスク「例外なく。黄金聖闘士は黒サガ自らが取調べをやるから、誤魔化しがきかねーし」
アフロディーテ「勉強が苦手なミロが1番大変だったんだよ」
デスマスク「ああ」
カノン「アイオリアは?」
アフロディーテ「リアは、星矢や魔鈴と仲がよかったから魔鈴に教えてもらうって言う手段が使えてね。1週間魔鈴と星矢の2人に個人レッスンを受けたらしい。その甲斐あって、ちょっと聞き苦しいし解りにくいけどギリギリ合格点もらえていたよ」
童虎「ワシも紫龍がおったからのう。それに、アテナが城戸沙織であることは見当が付いておったから、ある程度ムウと一緒に勉強をしたのでできるんですじゃ。まあ、黒サガも流石に五老峰とジャミールまでは来んかったから、関係はなかったがのう」
デスマスク「アルデバランは、マジメでやればできるだろ。サガは言いだしっぺで頭もいい。オレ様は言うに及ばず。シャカは・・・・なんつーか妙な要領のよさで必要なものだけ記憶したみたいだったしなー。元々仏教関係で齧っていたらしいから」
沙織「シャカらしいわ」
アフロディーテ「シュラは私と一緒に勉強して、カミュは氷河に習ったって言っていましたから」
カノン「つまり、コネがなくて、要領の悪いミロだけが困ったと」
デスマスク&アフロディーテ「そう!」
ミロ「前の晩に、必死でカミュとアルデバランにアイオリアに手伝ってもらって(涙)」
アフロディーテ「あんなに小宇宙を燃やしたの初めてなんじゃないのか?」
ミロ「うん、そんくらい頑張った。聖衣貰った時よりも頑張った。出来なきゃ、聖衣の所有権剥奪なんていわれてんだもん。オレに比べればアイオロスは時間合ったよな。羨ましい」
アイオロス「うーん、でも、オレ記憶力は良くないからなー。すっごく困ったよ」
沙織「アイオロスも?」
シオン「私も覚えさせられましたのう。黄金度聖闘士が一気に5人増えた時に、共通語がギリシア語ではなく日本語だと聞かされて」
アイオロス「んでさ、みんなに教えてもらったんです」
カノン「それで、聖域の共通言語が昔のギリシア語から日本語に変わっていたんだな」
アフロディーテ「そう言う、カノンも、日本語できるんだな」
ミロ「狽!そういえば、何の問題もなく話してる」
カノン「お前、今気がついたろう。ま、以前に覚えたからな」
デスマスク「なんで?」
カノン「・・・・・・・・・・・・・・・・・(ゾク) 悪いが、あのときの事はあまり思い出したくない・・・・」
ミロ「カノンも辛かったか?」
カノン「ああ。アレは辛かった。出来る出来ないではな云々と言うより、講師が鬼のようだった」
突っ込むに突っ込めないほどカノンは酷く遠い眼をしていた。
反対側の席では同様に、サガも遠い眼をしていた。
サガ「身に覚えがないのに。身に覚えはないのに。そんな命令を出していたとは。誰も処刑されたりしていないといいのですが」
小さく呟いていた。実際に黒サガが、自分で言葉が出来るかどうかを確かめたのが黄金聖闘士だけだったので被害は出ていない。
それに、下の方の階級は期限後にマスターしたのでも然程問題がなかった
沙織「じゃあ、日本語を共通語にしたのは、黒サガなのね?」
デスマスク「結果的には。ま、実際にはアンタをバカにしたかったって理由だけどな」
アフロディーテ「そう考えると、アテナにとっては、唯一の黒サガの善行ですね」
沙織「そうね、ゴキブリだとばっかり思っていたけどそんなことなら、今度、あの箱の前に線香くらいは挙げてあげても良いわね」
別に黒サガは死んだわけではないのだが、誰もその一点には突っ込まなかった。(黒サガについては「元凶、またもや現る」参照)
そんな会話は、平和な昼下がりに交わされたのだった。
過去を笑って話せるように、様々なものがゆっくりとだが着実に癒えて。
† † †
氷河「ということで、聖域では日本語が共通語になっているらしいんだけど、海界はなんでなんだ?アイザック、お前、以前一緒に修行していた頃は日本語しゃべれなかっただろ」
アイザック「・・・・・それはな、ソレントが指揮してやったんだ。ほら、ソレントってポセイドン様至上主義だろ」
氷河「まあ、そうだな。ジュリアン・ソロに戻った後も一緒にいたくらいだし」
アイザック「そうそう。それで、ポセイドン様、こと、ジュリアン様が城戸沙織に惚れたという情報をどっからか入手してきてさ『ポセイドン様の奥方に肩身の狭い思いはさせれません!海闘士全員日本語を覚えなさい!!』ていう事態になったんだ」
氷河「なんかに聖域に似たような理由だな」
アイザック「理不尽が起こる時はみんなそんなもんだ。でもさ、オレはまだ良かったんだよ」
氷河「なにが?」
アイザック「本来、海界の共通語はギリシア語だろ」
氷河「そりゃギリシアの神様の領域なんだからな。そこで、ロシア語やフランス語を共通語にしたんじゃ何やっているかわからないだろうな」
アイザック「そう、それが海竜の理屈で、実際にギリシア語教育やってたんだ。オレは、先生に教えてもらっていたから、教える側にいたんだけどバイアンとイオは、大変だったんだ。あの2人は頭使うのが苦手で、日本語って言語の形態が全く違うだろ。しかも、文字だけで3種類。毎日『もー、イヤー!!』とか『オレはカナダに帰る!!』って喚いてた。しかも、ギリシア語も結構いい加減に覚えていたもんだから、海竜に『良い機会だ、ギリシア語も文法その他正式なものに教えなおしておけ』って命令が出てさ、2言語抱えることになったんだ。見ていて可哀想なくらい毎日勉強させられていたよ」
氷河「・・・・・大変だったな」
アイザック「ああ、イオなんかノイローゼになりかかってたもんな(遠い目)海竜は全然止めないし。あの人何故か日本語最初から出来たんだよな」
氷河「ふーん、あの人海底に来る前から出来たんだ。いつ覚えたんだろう?」
アイザック「さあ、あの人あんまり過去とか話さなかったからな」
氷河「今度サガにでも聞いてみようか。まあ、でも、その努力のおかげでオレたちは助かったな。母国語が通じたから」
アイザック「お前はな」
氷河「どこも、上の突発的な思いつきは大変なんだなー」
アイザック「ああ、迷惑極まりないよな。ギリシアの神様なんだから、ギリシア語でいいっての!」
ソレント「ほほーーう。その話ゆっくり聞かせてもらえます?」
首をギギギギと音がしそうな程ゆっくりを後ろに回し、その視線の先を確認した。
アイザック「・・・・・狽ャゃーーー!!出たーーーー!!」
ソレント「待ちなさい!!アイザック」
氷河「・・・・・・・・・・・・・・・・・・がんばれ」
小さく呟いた声は、主が逃げ出した北氷洋に流れた。
† † †
そのころ、冥界の3巨頭の間でもでも同じような話題が持ち出されていた。
ミーノス「ねえ、ラダ。貴方頭いいですか?」
ラダマンティス「は?」
アイアコス「バッカだなー、ミーノス。ラダが頭いいわけないじゃん。いらんでいいことしてパンドラ様にお仕置きされるんだから」
ミーノス「そういう、人間としてバカかというのではなくてですね、物事を覚えるのは得意かと聞いたのです」
ラダマンティス「オレの事をそういう風に見ていたんだな、アイアコス。(怒)・・・・・まあ、頭のよさは普通だろ。覚えようと努力すれば大体覚えられるくらいはできるから」
ミーノス「アイアコスは?」
アイアコス「うーん、どっちかって言うと、苦手?ほら、体を動かすのが伴った方が得意って言うか・・・そんな感じ」
ミーノス「つまり、貴方たちはどちらも、決して頭脳明晰ではないですね?」
アイアコス「すっげー失礼だけど、そうだよ」
ラダマンティス「まあ、そうなるな」
ミーノス「では、何であの短期間に日本語を覚えれたんです?」
ラダマンティス&アイアコス「へ?」
ミーノス「あの日。ハーデス様のお力によって冥闘士となったあの日に、冥界に来て即座に日本語が話せたんですか?」
ラダマンティス「何でって・・・・・なんでだ?」
アイアコス「さあ、オレに聞かれても・・・」
ミーノス「この私なら解りますよ。ですが、なんで、貴方たちまで出来たんです」
アイアコス「ミノース、日本語勉強していたの?」
ミーノス「してませんよ」
アイアコス「じゃあ、何でミノースなら出来て当然なのさ」
ミーノス「フッ、それは、私が天才だからですよ(断言)」
ラダマンティス&アイアコス「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミーノス「何か言いたいことでも?」
ラダマンティス&アイアコス「・・・いえ(フルフル)」
ミーノス「という訳で、気になるのでパンドラ様にお伺いに行きますよ」
アイアコス「何でパンドラ様に?」
ミーノス「冥界で解らないことがあれば、先ずはパンドラ様にお伺いするのが筋でしょう」
アイアコス「だったら、ミーノスだけで行けばいいじゃん」
ラダマンティス「あ、おい」
ミーノス「何言ってるんです?これは私に関してではなく貴方達に関する謎なんですよ。この私がじきじきに調べてあげようというのに、当人が来ないなんてありえません。という訳で行きますよ。それとも、操られたいですか?(ニッコリ」
アイアコス「いえ」
ジュデッカ。
パンドラ「ほう。それで、私に聞きに来たわけか」
ミーノス「はい。もしお解りになるのでしたら、理由を教えていただきたいのですが」
パンドラ「それはな、ハーデス様のためだ」
三巨頭「は?」
パンドラ「今世でのハーデス様は、アンドロメダの肉体を所望された。それは知っておるな?」
ラダマンティス「それはもちろん」
パンドラ「そふむ。そのアンドロメダは日本人であったからだ」
三巨頭「・・・はあ」
パンドラ「ということは、母国語は日本語であろう」
ラダマンティス「・・・それは、そうでしょうな」
パンドラ「それならば、ハーデス様に言語に関する問題を生じさせるなど、姉としてはあってはならん!」
アイアコス「えっと、それと、私たちが日本語を話せるのはどういう関係が・・」
パンドラ「大いに関係があるとも!お前たちが日本語を話せれば、言語問題は関係なくなる!!」
ミーノス「まあ、一つの理屈ですね。世界各国から集まってくる多人数に対し、随分と、難しいですが」
パンドラ「そう、聖戦までの時間は短く、出身国はバラバラ。ならば、やるべきことは唯一つ!」
三巨頭「???」
パンドラ「冥衣に日本語機能を組み込んでもらうのみ!!!」
三巨頭「は!!??」
パンドラ「冥闘士は聖闘士のように、修行をしてその技術を身につけるのではない。また、海闘士のように、ポセイドンの意志を感じて冥界にやってくるのでもない。108の魔星に選ばれるかどうかだけだ。魔星が復活すれば即、聖戦では言語統一のために指導をする暇などない。よって、ハーデス様にお願いして、冥衣に日本語機能を追加してもらったのじゃ。じゃから、最初に冥衣を身につけたら自動的に日本語を頭の中にインプットされる。よってい今は冥衣を脱いでいても解るのはそういうことじゃ」
三巨頭「・・・・・・・・・・・・・・・」
パン「納得したか?」
ミーノス「は、はい」
ラダマンティス「・・・・ご説明有り難うございます」
アイアコス「・・・・・・・・・・・・・お心遣い痛み入ります」
パン「ほほほほ、良い。全てはハーデス様の御ため。そして、ハーデス様の偉大なるお力じゃ」
その心遣いによって、聖戦において数ヶ国語が入り混じることなく統一された言語で会話が行うことが出来たのだった。
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